モンゴルで遊牧民と一緒にヤギ・ホルホグを食べる

2024-09-11 徳田

モンゴルには「ホルホグ」という伝統的な料理がある。
骨付き羊肉を、焼けた熱い石と交互に重ね、野菜と塩だけで味付けするシンプル石焼(蒸し焼き)料理だ。
一般的には羊肉で作るのだが、今回初めて「ヤギ肉」を使った「ヤギ・ホルホグ」を遊牧民の人に作って頂き、一緒に食べることになった。
チンギス・ハーン以来、受け継がれてきた肉の取り扱いのプロ、遊牧民が作るホルホグ。馬に乗ってモンゴルの山奥まで来たのだ。この機会を逃さず食べてみたい!

できたてアッツアツ!ヤギ・ホルホグ

1,モンゴル・ナイマンノールにやってきた

この夏、モンゴルへ行ってきました。
目的は「ナイマンノール自然保護区」という山奥のカルデラ湖エリアへ、車では入れない登山道を通って馬で目指すこと。

↑ 場所はここ、モンゴル・ウブルハンガイ県。
ウランバートルから西へだいたい400キロの辺り。
この丸い湖の湖畔にテントを張って野営するため、遊牧民の人達と、ガイドさん、私たち旅行者、合計13人+馬16頭で、車の入れない細い山道を馬に乗って行ってきました。

まずは馬を貸してくれる遊牧民「ママさん」の家に立ち寄り、ママさん、ママさんの甥っ子2人と一緒に馬で西へ。

広い草原といくつかの川を越えた先、馬で2時間ほど進んだ山のふもとを目指す。
この先は急な登りが続く険しい山、その山を越えたしばらく先まで人はいないという登山道の入り口までたどり着く。そこに夏の住居を置いている遊牧民の住居(ゲル)を借りて1泊。

手前2つが遊牧民の住まい、奥4つが「貸しゲル」


翌日、夜営の荷物を3頭の馬に分けて積み、人間もそれぞれ馬に乗る。
「こんな所ヤギでも登らないんじゃ?」というほど険しい岩山を越え、踏み出すたびに馬の脚が沈むような湿地帯を抜け、川を越え、草原を駆け抜け、休憩無しで馬にのり続けて約3時間。
夜営地のナイマンノール、その湖畔へやってきた。この湖のほとりに住む遊牧民の家で、ホルホグを作るのだ。

右奥に見える小さな白い点が遊牧民のゲル


2,目の前は湖!絶景に住む遊牧民の家で作るホルホグ

ナイマンノールはいくつかのカルデラ湖が集まっている地域。特にこの湖は、湖の凹みを取り囲むように外側が立ち上がった外輪山の地形になっており、阿蘇の草千里に少し似ている。
その「外輪山」の部分に、夏の住まい(ゲル)を構える遊牧民のお宅を訪問。

野営地から隣の遊牧民ゲルまで馬で15分

夕方、皆で馬に乗り、ぞろぞろと伺う。
小学生くらいの少年が、ヤギと羊が混ざった群れを家の近くまで集めてきていた。この家では家畜はヤギ、羊、ヤクを飼っているようだ。

外輪山の上、湖を見渡す絶景の場所に構える住まい
この素晴らしい景色!雄大すぎてうまく切り取れない

訪問すると、既に解体された骨付きヤギ肉が、赤ん坊の沐浴ができそうなくらい大きいボウルいっぱいに入っていた。
「これがヤギ……?」「肉!って感じするね」「かたまりが大きい!」
みんな口々に感想を述べながら沢山写真を撮る。

ヤギ一頭分の肉に全員興奮!

大人の男性が歯を食いしばって持ち上げるほど重い。外ではカンカンに薪ストーブが焚かれて準備はOK。
ストーブの上に大鍋を置き、この家の遊牧民のおじさんとママさんが火ばさみと手でどんどんヤギ肉を投入する。

油なんてひかない

肉が10個ほど投入されたところで、大きめのくし切りになった玉ねぎも少し投入。
この家の遊牧民のおじさんがストーブの薪投入口の扉が開け、中で加熱されていたアツアツの焼き石を鍋の中に2~3個放り込む。すかさずママさんが、その上から肉と少しの玉ねぎを投入。そしてまた焼き石を入れる。

デール(民族衣装)を着た遊牧民のおじさんも見に来た

肉、焼き石、肉……と重ねられ、そのたびに肉が焼けるジューーッ!という音と、焼き肉屋を思い出させる美味しい香りが漂う。
「焼肉ジュウジュウ ナイマンノール店」はここですか?

鍋からあふれんばかりに肉と焼き石が積み重ねられると、その上に半分に切ったニンジン、丸のままのジャガイモ、ざく切りのキャベツをのせる。味付けは粗塩のみ。

たぶん湖でくんだ水だと思う

ミルク缶にくんだ水を、肉には直接かからないよう鍋肌に沿って回し入れ、肉が入っていたアルミの大きなボウルをフタ代わりにかぶせる。
鍋とボウルのすき間にタオルをぐるりと回し、蒸気が漏れないようにすると、その上から薪割り前の大きな木をのせて重しに。
この家の遊牧民のおじさんが私たちを指し「誰か木の代わりに乗っておくか?」と言いながら笑う。冗談が好きな明るい人だ。

蒸気はなるべく漏らさない

「ここから1時間待つ」とおじさんは言い、一時解散。

3,湖のほとりで待つ

ホルホグが出来上がるまでの間、外輪山の急な崖をおりて湖畔へ行ってみる。溶岩石がゴロゴロしている湖畔を、この家のヤギと羊がすき間の草をはみながら歩いて行った。

(この群れの中にさっきまでいたヤギを食べるのか……)

目の前を横切る群れを見ながら肉と命が繋がっていることに改めて気がつき、急に感傷的になる。

ヤギと羊を混ぜて飼うのがモンゴル流

モンゴルの19時、日は少し西に傾いてるが、日本の同じ時間と比べるとまだまだ明るい。
バキッと濃く青い空に漂う雲が静かな湖面に写っており、湖の中にある島の上には沢山の鳥が羽を休めてグワァーグワァーと鳴いている。
ここに自分がお邪魔しているのが申し訳なくなるほど美しい景色だ。

鏡のような湖面に雲と山並みがはっきりうつる

足場が悪い岩場をふらつきながら水辺へ向かって歩いて行くと、湖の浅瀬で水草が白く小さな花を咲かせ、西日の中で輝いていた。あまりに静かな湖面に自分の痕跡を残したくなり、思わず履いていた靴と靴下を脱ぐ。
つま先をそっと水につけてみたが、思ったほど冷たくはない。昨日は遊牧民の家のゲル民宿だったため、お風呂がなかった。そんなタイミングで水に足を浸す感覚が心地よい。

湖水は想像よりぬるめだった。浅瀬だから?

水辺で元気良くつま先を蹴り上げると、私を中心にバッと波紋が広がり、水しぶきがキラキラと輝くのが面白く、バシャバシャと何度も蹴り上げた。
私が起こした波紋は、この大きな湖の中ではほんの小さな面積でしかなく、湖の99%以上の部分には青い空と白い雲、反対側の外輪山の山並みが揺らぎもせずうつっている。この雄大な景色の前では己の小ささがむなしく感じられてしまい、急にみんながいる外輪山の上のゲルへ戻りたくなってしまう。
先ほどおりてきた崖の上を振り返ると、グループの中の4~5人がこちらを向いて景色を眺めているのが小さく見えた。

大きく息を吸い、手を口元に添え、精いっぱい大きな声を出す。
「これから!かえりまぁぁぁーーーす!!!」

崖の上にいるみんなが笑っている。ホルホグもそろそろ仕上がっているだろうか。

外輪山の崖の上からみんなに見られていた

崖を駆け上がる途中で、この家のヤクも同時に帰宅してきた。この家の人から、桶に入った塩を与えられ、一生懸命なめている。低い声で「ブゥブゥ」と鳴き声をあげながら悠然と歩く姿に、神聖さを感じる。

ヤク軍団の帰宅

4,ホルホグできたよ

蒸し焼きにすること1時間、ホルホグができあがった。
みんなでストーブを囲んだところで、家のおじさんが蓋をとる。モワッとあがる湯気を見て、みんなから思わず拍手がおこる。
「うわ~肉だ!」「肉だね」「絵に描いたような骨付き肉じゃない?」

ママさんをはじめ、遊牧民の人たちや子供もニコニコしている。ホルホグはモンゴルの人にとってもごちそうなんだとか。やはり、人を幸せな気分にさせてくれるのは肉である。

肉、野菜、焼き石も全部蓋代わりのボウルに移す
3人がかりで持ってもらい撮影タイム

上にのっている焼き石は、モンゴルでは昔から「手に乗せると疲れが取れる」と言われているそうで、みんなで順番にまわして手にのせる。
「熱っ!!」
熱すぎて持っていられないため、お手玉の要領で右手と左手交互に乗せて石の熱を味わう。疲れが取れる前に誰かヤケドするんじゃなかろうか。

ボウルを地面に下ろし、みんなでホルホグタイムが始まった。
各自、勝手に手を伸ばして、良さそうな部分を骨ごとつかんで頂く。

とにかく肉!一緒に蒸された野菜は別皿へ

ヤギ肉との遭遇が初めての私は、どこを頂いたら良いのか分からず迷っていたら、遊牧民のおじさんが「この骨の横の肉が美味いぞ」と指し、ナイフで切り分けてくれるが、それがどの部位なのか全く分からない。分からないけど、肉をつまんで頂く。塩しかついていないが美味しい。
何肉とも形容しがたい風味で、臭みが無く少し歯ごたえがある。スジのところは丈夫なのでナイフで切りながら頂くのだが、とにかくジューシーで美味しい肉なのだ。

骨付きで一番小さい肉見つけた!

この味をあえて何かに例えるなら、私が知る中で一番似ている肉はマトンだろうか。歯ごたえと味は「マトン」に似ているけれど、マトンとは比べ物にならないほど荒々しく風味豊かな味わいが、ジビエ料理で頂く肉を思い出させる。
そうだ、これはジビエだ。

5.ヤギは熱いうちに食べなさい

みんなでホルホグを囲みながら「うまい、熱い、うまい!」と食べていると、通訳のツェーギーさんがモンゴルのことわざを教えてくれた。
「モンゴルには『ヤギは熱いうちに食べる』という言葉があります」

ヤギ肉は冷めると脂がすぐ固まってしまうことから転じて、「早く実行に移すのが良い」という意味で使われるのだそうだ。
「家で勉強をしない子供に言いますね。『ヤギは熱いうちに食べなさい!勉強もね』という感じですよ!ははは!」

子を持つ親の気持ちは世界共通らしい。

そのうち、この家で飼われている黒くて大きな犬が私たちの輪に近寄って来た。
モンゴルの遊牧民は家畜を守るために番犬として「モンゴリアン・バンカール」という犬を飼っている。番犬のため名はつけず「ノホイ(犬)」と呼ばれ、家族以外には寄ってこない犬が多い。

熊のごとく大きく立派な手!

おこぼれをもらいたくて近寄ってきたらしい。
この家の遊牧民が、肉を食べた後に残った骨をつかむと、番犬の方に投げたその瞬間!

ボリッボリ!ゴリゴリッ!!

音を立て、骨をかじって食べる犬。歯がとても丈夫なのだろう。私の身近にはこんな犬はいない。この荒々しさがモンゴルらしくてたまらない!

肉ナシの骨を夢中になって食べている

ヤギ骨をバリバリッと音をたてながら真剣にかじる犬、野性みがあるのに、かわいい。ワイルドかわいい犬はいいぞ。

以上、モンゴルで美味しいお肉を遊牧民と犬と一緒に食べた紀行でした。

【追記】
昨年夏、モンゴル旅行ツアーに参加した初対面の仲間4人で「モンゴル女子旅本」(旅行記ZINE)を作りました!

内容はモンゴルの大自然を豊富な写真で紹介!
モンゴルでのリモートワークレポ、チベット僧占い体験報告、モンゴル短歌、遊牧民ホームステイレポ、乗馬エッセイ、モンゴルお土産紹介、ウランバートルのザハ(市場)紹介等の記事を掲載しています。
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