36歳、ピアスを開けてみた

2024-09-17 えり

36歳、生まれて初めてピアスを開けた。

といっても特にアクセサリーやジュエリーが大好き!というわけでもなく、おしゃれに興味があってずっと開けたかった!というわけでもない。
むしろ学生時代は所謂"芋"で、窓際の席で一人絵を描いていた地味な女子だった。

垢抜けない学生時代からそのまま大人へ

高校は進学校で校則はそれなりに厳しかった。
女子たちはなんとか教師の目を欺こうと必死にスカートの丈を短くしたり、眉毛を細く剃ってみたり、放課後になったらルーズソックスに履き替えてみたり、ピアスも絆創膏で隠したり、女子トイレで会議を開き知恵を絞っては、教師に叱られ毎度のように職員室に連れて行かれていた。そんな光景を横目で見ながら、私はコミケに出す同人誌の原稿を休み時間に描いていた。今となってはそれもどうかと思うが。彼女たちは叱られるのが分かっているのに、なぜそこまで違反だと言われることをするのか私には謎だった。与えられたルールや約束は守ることだと当然だと思っていた。が、世間ではどうやら反発することも青春のために必要だったみたいだ。

そのうち漫画を描くことに没頭し始め、私はそのまま美術系の大学へ進学した。趣味を通して知り合った人と恋愛をして、初めてネックレスをプレゼントされた。プレゼントされたことは嬉しかったが、しかし残念なことに全くときめかなかった。キラキラが素敵とか、綺麗だねとか、当時の私はそんな言葉がむず痒くて恥ずかしくて「この金額でBL本爆買いしたら何冊買えるな」とさえ思っていた。アホすぎる。
彼には申し訳ないが、アクセサリーをつけたのはその1度きりだった。

それから就職して仕事に夢中になっていたら、ピアスの穴のことなんかすっかり忘れてしまっていた。相変わらず垢抜けない芋っぷりは社会人になっても健在である。

そんな冴えない私を拾ってくれた人と結婚し、挙式をすることになった。
その時当然アクセサリーの話が出てきたが、大ぶりのデザインはイヤリングの方が豊富で、こんな派手なもの一度きりしか使わないだろうなと思い、
仕事帰りに百貨店に寄って大ぶりのパールで装飾されたイヤリングを購入した。ここでもピアスはスルーされたのだった。

28歳の時に長女が産まれ、30歳の時に次女が産まれた。
育児は神経を研ぎ澄まし、小さな部品やおもちゃを床に落としっぱなしにしないように気をつけていた。疲労と楽しさ、職場復帰への葛藤と保育園入所できるか不安で心が忙しかった。ピアスなんて耳につけてたら引きちぎられて恐ろしいことになっているかもしれない。そんなことを思っていると自分は二の次、ピアスどころか自分の服さえ興味が失せていった。
長女の小学校入学のタイミングで引越しをしたので、私は退職。
夫も独立し、家を不在にすることが多くなったので私が子どもたちのサポートに入ることにした。
子ども達が大きくなって誤飲の心配がなくなってくるとやっと自分も余裕が出てきて、髪を染めてみたり服を買うようになったり変化が見られた。イヤリングを少しずつ集め始めたのもこの頃。

ぽっかり空いた自分の時間

私は不器用な人間なので、両立というのがなかなか難しい。
仕事をしていた時は自分の趣味を強制的にシャットダウンしていた。
好きなこと楽しいこと行きたいところは全て子ども中心に決めていた。
なので退職をして、子ども達がそれぞれ小学校や幼稚園に慣れてきた頃、ぽっかり空いたフリータイムというものが日中3時間ほど生まれた。
最初のうちは今までできなかったことをやろうと奮闘した。
その中のひとつが「ピアスの穴を開ける」だった。

きっかけは娘の一言

ある日、次女が私の顔をじーっと見て言った。
「ママ、お鼻にブツブツできてるね」

・・・

この言葉を聞いてショックを受けない女性がいるだろうか。
さすがの私も顔が引きつった。自覚はしていた。していた。
でも面倒でケアをしなかったのを見抜かれた気がした。
女の子って可愛いけど、たまに酷なことをストレートに言ってくる。

それから私は、ちょっとだけスキンケアを気をつけるようにしてみた。
少しでも目立たなくなるといいなと思って、ネットで情報を集めては手頃な値段のものでまずは試してみる。繰り返してくうちに今度は顔のくすみが気になるようになってきた。今までちゃんと自分を鏡で見ていなかったけど、30代過ぎているんだからそりゃ老けるわ。気になり始めると思考が止まらない。調べていくうちにメイクの他に合わせるアクセサリーが重要ということがわかった。この歳にしてファッションの基本を知る。
しかし私はイヤリングが苦手。ずっとつけていると耳が痛くなるし、頭も痛くなるし、すぐ落ちて失くす。何よりイヤリングの金具が苦手だった。
かといってノンホールピアスのデザインも苦手。半透明の樹脂製部分が近くに寄ると結局見えてしまってなんだか恥ずかしい。
そんなこともあってピアスに見えるイヤリングを探しては好んでつけることが多かった。

街の人の耳が気になる

30代後半、顔のくすみ回避のためイヤリングに興味を持ち始める。
夕飯の買い出しのついでにアクセサリーショップに立ち寄るようになった。
裏面にして金具をチェックして「あ、これイヤリングじゃないや」確認が終了したら元の位置に戻す。これがいちいち面倒くさい。
購入したものの、つけてみたら3時間程度で耳がだんだん痛くなってくる。
頭痛がはじまってきたらもう最悪である。この耳の痛みの対処法を必死で調べてお出かけの時は恐る恐るつけるけど、午後には我慢できなくなりトイレで外してしまう。いつの間にかアクセサリーをつけない垢抜けない女復活である。
イヤリングで悩み始めてくると思考が「周りの人はどんなものつけてるんだろう」と気になってくる。駅前やスーパーを歩く人たちの耳を目で追ってしまうようになった。

裏面金具チェックが面倒になってきた。頭痛が嫌だ。紛失も嫌だ。街中の人の耳がどうしても気になって仕方ない。もういい…!ピアス開けよう!
くどくど考えるのが面倒になってきたので、夏休みが終わり自分の時間ができたタイミングですぐ皮膚科にいった。

ついに病院へ

受付を済ませるとファーストピアスはどれがいいかと聞かれた。
シルバーのボール、アクアマリン、ピンク。お目当てのダイヤモンドは欠品中だった。
1ヶ月以上同じものをつけるのだから違和感なく自分が納得するものをつけたい。人生初めてのものだし。ダイヤモンドはいつ入荷するのか?と聞くと
「3週間後くらい」だそうで悩んだ結果「出直します」と一言伝えてクリニックを後にした。
それでも諦められない私。ネットで検索してピアスの穴開けを行なっている皮膚科を発見したので混雑覚悟で覚悟で行ってみることにした。
受付で初診であることとピアス開けたいと伝えるとまたファーストピアスどれにしますか、と聞かれる。こちらの病院はお目当てのダイヤモンドがあったのでちょっと舞い上がった。問診を書き終わると、保冷剤を2つ渡され耳たぶを冷やして待っててと言われた。心臓はバクバクしていた。
名前を呼ばれて診察室に入ると不安なことはないか聞かれて、開けた後のケアについて説明された。看護師さんから説明が終わると先生がやってきて
グルーガンみたいなピストルにピアスをセッティングしていく。
くるりと椅子を回され「はい、行きまーす」と言われて、5秒後には耳にピアスが刺さっていた。施術はあっという間でつねったような感覚があったが、ガンガン冷やしたおかげなのかほとんど痛みはなかった。今まで悩んでいたのは何だったんだろう。私が10年悩んでいたことは5秒で解決されてしまった。
お会計は1万円。心臓のバクバクも収まり、開通された耳を鏡で見るとさり気なくキラキラしていて可愛かった。シンプルで派手すぎず、金具も気にならない。初日こそジンジンと熱を持った痛みがあったが夜になるとつけていることも忘れてしまうくらい馴染んでいた。特につけている間、頭痛が起こらないことにとても感動した。こんな気軽にアクセサリーを楽しめるならみんながピアスを開けたがる気持ちも分かる気がする。これから約2ヶ月小さなピアスをつけて生活するのが楽しみ。

今まで自分にベクトルを向けてなかったことを後悔している。
それに気づかせてくれたのはたった5歳の次女の一言だった。もっと自分を楽しんでいいんだと思わせてくれてありがとう。

自分を変えるってとっても勇気がいること。
些細なきっかけと大きな一歩と心臓バクバクに勝つ勇気を久しぶりに味わった出来事になった。

これからピアスどうなったかも、少しずつnoteに記録していきます。

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