静岡県のとんがり部分を3日がかりで見て来た。南アルプスをご覧じろ!
2023-09-17 阪口せりな|静岡5年目
横向きの金魚にユニコーンの角が生えたみたいな形をしている静岡県。その角(とんがり)は長野県と山梨県の県境に分け入るように刺さっています。静岡県民でもほとんどの方がいったことない場所。先日、縁あって訪れることができたのでご紹介しましょう。深山幽谷の趣きをとくとご覧あれ。
Q.静岡県のとんがり部分がどんな場所か知ってますか??
住所的には、静岡県葵区。静岡県の県庁所在地で70万人が暮らす静岡市に属しています。ところが静岡市の街は沿岸に寄っていて、「まち」の北側(静岡市の大部分)はオクシズと呼ばれる、里山文化の色濃い自然豊かな場所。そしてその突端のとんがり部分はというと、標高3000mの山々がそびえる、南アルプスです。車道はとんがりの付け根までしかありません。そこから先は、二本足かヘリコプターでしかアクセスできない、辺境の山奥!
静岡に来てからずっと静岡の最奥を踏みたかった…でも登山をかじった身だからこそわかってしまう、登山口までのアクセスの悪さ、標高差2000mの登り、そして一日の行動量。自分には無理…と諦めておりました。
いざゆかん、南アルプスの王者・赤石岳へ
とんがり部分への憧れだけを募らせる日々でしたが、先日、登山家・大石明弘さんの赤石岳登山ツアーが開催されることに。なんたる|僥倖《ぎょうこう》。ロープウェイ頼みのお気楽登山ばかりでなまった身には|躊躇《ためら》われましたが、「ゆっくり登ります」の文言に押され、震える手でご連絡。静岡にきて5年目にして初めて南アルプス南部に踏み込んできました。
くたくたになったものの、メンバーと天候に恵まれ素晴らしい山行となりました。せっかくなので、登山家以外の方々にも南アルプスを追体験いただきたく、標高ごとに山中の様子をご紹介。
―とっても長い記事になってしまったので、山頂だけみたいんじゃ!という方はサーッと強めのスワイプ3回くらいすると辿り着くと思います。―
初日
①登山口まで
朝4時に静岡駅を出発し、早朝の井川(かつての井川村)を通過。井川だって相当に山奥ですが、さらに一時間程走らせて、畑薙第一ダム。
バスに揺られ小一時間、|椹島《さわらじま》ロッジに到着。すでに標高1100mあるので、街中よりかなり涼しい。
②標高1100m~1500m付近
ここで文明に別れを告げて、登山開始。
登り始めて40分、1500m付近でギンリョウソウが咲いているのをみつけ、休憩。このあたりは樹高も高く、下草はない。たぶんシカが全部食ってます。大きなキノコがぽこぽこと発生していて、かわいい。
ギンリョウソウは独自の生存戦略をとったおもしろい植物です。[ギンリョウソウ]ー[菌類(菌根)]ー[そのへんの木]が|菌根菌《きんこんきん》ネットワークで繋がってる。
詳しくはこちら▼。知ると森の中を歩くときワクワクするはず!
③標高1500m~2000m付近
黙々と急登を進むにつれ、樹高は低く、林内が明るく感じてきます。生えている樹(|植生《しょくせい》)も移り変わります。
2000m近くになると、苔が増えてきました。標高100m上がると0.6℃気温が下がります。つまり下界より12℃低いこの辺りから上が、苔にとって暮らしやすい冷涼なエリアになったということなんでしょう。
④標高2000m~2500m付近
もう登り始めて4時間近く、標高1000m分を上がっていて、さすがに疲労がたまってきます。ただし2000mをこえた冷涼な森はとても快適だし、ここまできたら小屋(2560m地点)まであと少し、と元気を振り絞って歩き続けます。
細い木(若い木)が多い。「木材用途で伐採した名残じゃないか」とのこと。なるほど。
ここが本日最後の急登。すでにへとへとなので、心して臨む…
ひぃひぃ言いながら登るつもりが、林内の雰囲気や足元のお花に励まされてあちこち見て写真を撮りながらで、思っていたより辛くない…かも..?!
歩荷返し終了。終わってみればあっというま。「なんだ意外と大したことなかったね」と笑い合う。
あとはゆるゆる歩き。
足元には赤い石が!!赤石岳の由来がこちら。
そしてついに初日のゴール、赤石小屋へ。
⑤赤石小屋
小屋が見えた時は思わず喜びの声が出ました。標高1100mの椹島ロッジから登り続けること約5時間、ついに標高2560m。長かった。
小屋からは、荒川三山~赤石岳~聖岳までが見えます。
ここからは、夜~夜明けの写真をお楽しみください。
あっという間に空のオレンジ色は抜け、青空が広がる。
そして二日目
①標高2500m~3000m
小屋まで到着して安心していたけれど、まだ山頂まで3時間の行程が残っている。気を引き締めて、二日目出発。
小屋からみた赤石岳はもっと身近に感じたのに…歩き出して30分、南アルプスのダイナミックさを痛感。赤石岳が大きすぎて近いと錯覚していただけ。しんどくって写真をあまり撮れていない。
今回、一番お見せしたかったのはこの写真かもしれません。見てください、この山深さを。これが南アルプス南部。
そしてここからが最後の急登(地獄)。
地獄の急登はほとんど写真を撮れませんでした。浅くなる呼吸とどんどん重くなる足どり。無心になって右、左、右..と足を交互に出すのみ。小一時間たったころ、やっと稜線に立ちました。
不思議なことに稜線にくるとふわっと足が軽くなる。荷物をおろして深呼吸。
②標高3121m、赤石岳山頂
小屋を出て3時間半、10:30に登頂。まだ午前中。
山頂は広々、360度の大展望。遠くは北アルプスの槍ヶ岳まで見えていました。山頂で昼食を食べたり、ヨガをしたり写真・動画を撮ったり…思い思いにのんびり過ごすうちに、気づけば雲があがってきて湿度が高くなっていました。
ガスってしまったので、そろそろ下山。
③赤石小屋へ下山
来た道を引き返します。
2時間半かけてゆっくり下り(私がめちゃくちゃ足を引っ張ってしまった)、小屋に帰ってあとは休息。初日よりも、高所スタートの二日目のほうがしんどかった気がします。ちょっと真面目に日常でも運動しよう..
ちなみにこの日、下界では土砂降りの大雨だったらしい。雲の上と下で、天気は全然違う。
最終日、三日目
①赤石小屋~椹島ロッジ(登山口)
この日は小屋から|椹島《さわらじま》ロッジまで一気に下る。快適だった山小屋と小屋番さんに挨拶をして、朝ごはんを抱えて5時に出発。
朝食タイムも含めて2時間半で標高を800mほど下げました。登りはあんなに時間がかかったのに。
そしてついにゴール。まだ朝の9時台。
|椹島《さわらじま》ロッジ到着。全員でストレッチヨガをして解放感に浸る。
そしてこれがおそらく静岡県最北のソフトクリームだ!!
②井川に寄って、静岡駅へ
この後は、山の汚れや疲れを|禊《みそ》ぐために白樺荘の温泉でゆっくりのんびり、リフレッシュ。途中、井川で寄り道しなが静岡駅へ。
井川やてしゃまんくについては語りたいことがたくさんあるので、また別の場所で好きなだけ書きつくねたいと思います。
下山したのは10時前でしたが、その後ゆっくりお風呂入って寄り道しながら帰ったので、静岡駅には18時到着。身体はくたくたでしたが、憧れのとんがり部分に踏み入れた達成感、個性豊かな登山隊の方々との楽しい思い出を反芻しながら、帰宅しました。
登山をする人以外はなかなか立ち入ることがない南アルプスですが、深い山ならではの静けさと豊かな自然を体感できる素晴らしい場所でした。
ご覧いただいた通り、気軽に「登ってみて」とは言えないのですが、静岡県の突端はこんな深い山だったんだ!と知っていただけたなら嬉しいです。 次はとんがりの最先端(最北端)、|間ノ岳《あいのだけ》に行ってみたいな。
大事な情報
①大石明弘さん
今回大変にお世話になった大石明弘さんは、8000m峰登頂された本物のアルピニスト。そんなすごい方が、清水にいらっしゃるとは・・・!そして山をご一緒できるとは・・!!
ちなみに静岡県のとんがり部分には7つの3000m峰があるのですが、それ全てを寝ずに35時間で踏破してる動画もあります。鉄人すぎる…
②特種東海製紙さんと南アルプス
江戸時代は徳川家直轄地だったこのとんがり部分の山々。明治維新後、大倉家が買い取り、木材生産を行いつつ(それが東海パルプ)、保護・整備。現在も椹島ロッジや、ロッジまでの交通手段、そして登山道の整備を特種東海製紙さんが行ってくれています。
この山深い南アルプスから切り出した木材は、大井川の流れを使って下流まで運びました(川狩り)。
なお、大井川鉄道・接阻峡駅から徒歩5分の資料館「やまびこ」1Fで詳しく展示されています。ここで放映されてる川狩りや南アルプスに関する動画、古い資料映像が好きな方は必見。大正~昭和の価値観に触れられてとてもいい(あまりにも好きで一部文字起こししました)。
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今回は一人ではいけないと諦めていた場所に、山を愛する個性的で多才な方々と二泊三日をご一緒でき光栄でした。たぶん街中で出会ったらこんなにすぐに仲良くなれなかったんじゃないかな。下界のことなんて忘れて、目の前の景色や自然への向き合い方についてあれやこれやとしゃべる時間も、山の魅力の一つ。
補足
想像以上に、南アルプス登りたい!と言ってくださる方がいてとても嬉しいです。ただ、赤石岳はハイキングデビューにはまったく向いてない場所…
ぜひ、いくつかの高山を経験して山の魅力にはまったうえで、トライしてほしいです!
山はいいぞ、デビューするときのおすすめ装備についてかつて書いたのでご参考までに▼