2023年、僕の心を震わせた「邦楽」ベスト10
2024-01-14 松本 侃士
僕にとっての2023年の最大のトピックスは、やはり、日本におけるライブシーンの完全復活だった。2020年の春以降、数々のライブやフェス、イベントが中止・延期となり、その後に少しずつライブシーンが前進し始めてからも、観客の声出しNGをはじめとした様々な規制が設けられ続けてきた。そして、2023年の年明けから春にかけて、そうした規制の撤廃が大きく進み、ついにライブの現場にかつてのような歓声が戻り始めた。戻ってきたのは、歓声だけではない。誰もが、何にも縛られずに、それぞれの方法/選択肢で、当たり前のように音楽を楽しむ自由が、私たちリスナーの手に戻ってきたのだ。音楽を含めたエンターテインメント全般が不要不急のものと見なされていた有事の時を振り返れば、その意味の大きさと深さが思い起こされると思う。
僕は、2020年以降、コロナ渦の日本の音楽シーンと向き合いながら生きる中で、その時々に感じてきたことを数々の記事に綴ってきた。その多くは、深く胸を締め付けられるような心情であったが、そうした混迷の日々の中にも確かな希望はあり続けていた。そして迎えた2023年。コロナ禍を生きる当事者としての心情を綴るのは、この記事が最後になると思う。日本のライブシーンは完全にコロナ禍を乗り越え、ここから2020年代のシーンが本格的に加速していく。ライブシーンの完全復活から既に半年以上が経つため、今やその実感が薄れ始めている人も多いかもしれないが、2023年はそうした喜ぶべき一年であったことをここにしっかりと書き記しておきたい。なお、今回のランキングにおいては、そうした日本の音楽シーン全体の大きな潮流を踏まえて、また、約3年ぶりに本来のライブ環境を取り戻すことができたことへの祝福の想いを込めて、1位の楽曲を選出した。
もちろん、ライブシーンの動向だけではなく、様々なジャンル/シーンで2023年を象徴する動きがあり、その中から数え切れないほどのエポックメイキングな、または、普遍的な輝きを放つ楽曲が生まれた。今回も例年と同じように、そうした全てのシーンの動きを俯瞰&網羅することは諦め、僕自身が特に強く心を動かされた10曲をセレクトした。便宜上、順位を付けてはいるが、これも例年と同様、1〜5位の5曲は、自分の中で優劣を付けるのが不可能なほどにどれも深い思い入れのある曲となった。コロナ禍は終わったが、私たちが生きるこの世界には今も、目を覆いたくなるような悲劇や不条理が溢れ返っている。そうしたシビアな現実を生きる中においても、心を奮い立たせ、活力を与えてくれる音楽、または、日常に優しく寄り添い、鮮やかに彩ってくれる音楽の数々と出会えたことを、後年のためにしっかりと記録しておきたい。
この記事が、あなたが新しいアーティストや楽曲と出会うきっかけ、または、興味や理解を深めるきっかけになったら嬉しいです。
【10位】
GeG 「EDEN (feat. にしな, 唾奇)」
変態紳士クラブとしての活動や様々なミュージシャンのプロデュースワークをはじめ、各所で多彩な活躍を見せている音楽プロデューサー・GeG。彼はそれらの活動と並行して自身のソロプロジェクトを推進している。2019年に大ヒットを記録した"Merry Go Round feat. BASI, 唾奇, VIGORMAN, WILYWNKA"を通して、そのソロ活動、および、彼が誇る卓越したポップセンスに触れたことがある人も多いはず。そして2023年、約2年ぶりとなるGeG名義の新曲”EDEN (feat. にしな, 唾奇)”がリリースされた。まず、「にしなと唾奇がバースを分け合う楽曲」というアイデアが秀逸で、実際に同曲を聴いて、2人の間で予想を遥かに超えたケミストリーが起きていて非常に痺れた。幻想的な響きを放つメロウなトラック。儚さと切なさを帯びたにしなの歌声。クールな熱さを秘めた唾奇のラップ。その豊かな重なり合いによってもたらされるダンサブルな躍動感、鮮やかな高揚感。あまりにも高い完成度を誇る一曲だと思う。なお、2024年の年明けにリリースされたGeGの2ndソロアルバム『Mellow Mellow ~GeG's Playlist vol.2~』に収録されている"水仙 (Prod. GeG) [feat. にしな]"では、にしなと唾奇のタッグが再び実現している。ここで挙げた2曲を含め、このアルバムには、リアルなストリート感覚と、全方位に開かれたポップセンスが奇跡的なバランスで両立している楽曲が詰まっていて、GeGが誇るプロデューサーとしての才能に改めて深く魅了された。ジャンルを問わず、また、メジャー/インディーズを問わず、「ポップ」であることは現代のシーンにおいて何よりも強力な武器である。だからこそ、GeGが率いるチームの今後のアクションからますます目が離せない。
【9位】
NEE 「生命謳歌」
長きにわたるコロナ禍が明け、ついにライブシーンが完全復活を果たした2023年。僕は、数々のライブやフェスの場で、ロックシーン新時代の到来を何度も肌で感じ取ってきた。特に、WurtS、PEOPLE 1、Chilli Beans.をはじめとした新しい価値観を掲げたアーティスト/バンドの大躍進に僕はとても大きな希望を感じていて、その中でも非常に驚かされたのが、数々のフェスにおけるNEEの圧巻の存在感だった。前々から、彼らはポスト・コロナ時代を牽引する最重要バンドの一つになると予感していたけれど、その予感は事前の想像を遥かに上回るスケールとスピードで現実のものとなった。2023年という勝負のタイミングで、大傑作アルバム『贅沢』をドロップしたことも彼らの大躍進に拍手をかけたのだと思う。"本日の正体"、"月曜日の歌"、"緊急生放送"をはじめ、カオティックでありながらアンセミックなメロディを誇る輝かしい楽曲が堂々と並んでいて、その中でも特に"生命謳歌"が素晴らしい。不安定で不透明で、そして不条理なこの世界を共にサバイブするリスナーに向けたメッセージは今まで以上に鋭く磨き込まれていて、特に《生命謳歌、歌います/贅沢に響かせてます/馬鹿になっても僕が歌うのは/貴方を守るため》という一節に、彼らの表現者としての深い覚悟を感じた。歌う理由、ロックを鳴らす目的が、揺るぎない確信を通して明確になった今の4人に一切の迷いはない。これは僕の持論だが、その境地に至ったミュージシャンは強い。2023年、数え切れないほど多くのリスナーがNEEのロックに救われてきたように、その音楽を通した繋がり合いのスケールは、2024年も日を重ねるごとにさらに拡大し続けていくのだと思う。
【8位】
RHYMESTER 「Open The Window feat. JQ from Nulbarich」
約6年ぶりのリリースとなった最新アルバム『Open The Window』は、RHYMESTERにとって、新たな、そして決定的な代表作になったと思う。果敢に、柔軟に、次々と新しい「窓」を開き続けてきたからこそ生まれた数々のコラボレーション楽曲が伝えてくれるのは、ヒップホップというアートフォームが誇る果てしない可能性だ。ジャンルや世代を軽やかに越境しながら、シーンに新しい価値観を提示する作品を作り続ける3人のスタンスは今作においても不変で、そこから始まる数々のコラボレーションが素晴らしい音楽へと結実するのは、大前提として、彼らの中にコラボ相手に対する深い愛と理解、そして敬意があるからなのだと思う。そうした相思相愛のコラボ楽曲の数々が収録されている今作の中でも僕が特に強く心を動かされたのが、アルバム表題曲"Open The Window feat. JQ from Nulbarich"だった。「反戦」を鮮烈に訴える楽曲ではあるが、ただ単に《Stop the war》《No more war》と叫ぶだけではない。《開くんだ その窓を世界と繋がれ/決して独りだと思う勿れ/共に叫ぶんだLoveとPeaceを/届けるんだHugとKissを Open the window》(Mummy-D)《次第に開いてくWindowに次々と/もうなぁなぁにしないと決めた人々/ついにみんな気づいたんだ 自分も同じと/奪い合いじゃない未来を描くヒント さぁOpen the window》(宇多丸)「窓」を開き、他者と繋がることで生まれる相互理解と連帯の可能性。その微かでも確かな輝きを温かな実感を通して感じさせてくれるこの曲は、反戦歌を超えた普遍的なメッセージソングとして、この混迷の時代の中で、あまりにも深く、そして切実な響きを放ち続ける。
【7位】
櫻坂46 「静寂の暴力」
2022年の年間ベストで、乃木坂46の5期生楽曲"バンドエイド剥がすような別れ方"をピックアップした時に書いたことにも通じるように、今、それぞれの坂道グループは、先輩メンバーが大切に育み続けてきた各グループの精神性を、新しく加入した次世代のメンバーが継承していく過程にある。それは、各グループの新メンバーに授けられている期別楽曲を聴けば(また、そのライブパフォーマンスを観れば)明らかで、例えば、2023年に発表された"シーラカンス"、"見たことない魔物"をはじめとした日向坂46の4期生楽曲は、まさに日向坂の真髄を凝縮したような晴れやかで快活なポップチューンだった。では、櫻坂46の3期生に授けられた期別楽曲"静寂の暴力"はどうか。全てのはじまりの一曲"サイレントマジョリティー"を想起させるタイトルの同曲のミュージックビデオを観て感じたのは、この曲は、そして彼女たちのパフォーマンスは、欅坂46時代から脈々と受け継がれてきた反骨の精神性を秘めていながら、同時に、(欅坂46時代の、世の不条理に真っ向から立ち向かうパワフルさとは似て非なる)美麗なしなやかさを誇っている、ということだった。僕はこの曲に、「継承」と「アップデート」の両方の意義を感じ取って、櫻坂46の未来がますます楽しみになった。なお、僕は、2023年もたくさんのアーティストのライブを観てきたけれど、一年を通して最も心を震わせられたアクトの一つが、「3rd YEAR ANNIVERSARY LIVE」と「COUNTDOWN JAPAN 23/24」における"静寂の暴力"のライブパフォーマンスだった。2024年以降、さらに化けていく一曲になると思う。
【6位】
花譜 「邂逅」
この数年間、僕は、何度も花譜の歌に強く心を動かされ続けてきたけれど、初めて聴いた時、思わず涙が溢れ出るほどに激しく感情を揺さぶられた楽曲は、この"邂逅"が初めてだった。この歌の中で叫ばれる《世界平和なんて嘘だ 皆一人ぼっちだ》という悲痛な現実認識。現実は不条理で、私たちは誰もが本質的に孤独である。それでも、歌うしかない。歌うことで、音楽を通して、この現実に対して抗っていくしかない。花譜は、何度も声を震わせ、昂らせながら、胸の内の感情の全てを余すことなく放ち、共有していく。歌うことを通して、この世界のどこかで自分と同じような孤独を抱く《君》を鼓舞しようとする。それでも、《世界平和なんて嘘だ 皆一人ぼっちだ》という結論は変わらない。《何でもかんでも言い訳して/触れ合うことを恐れてる/僕もきっとそうだ 君もきっとそうだ/心が動くのが怖いのだ》それでも、彼女は懸命に歌い続ける。その後に続く、まるでエモーションの絶頂を目指すかのような至極の展開、その切実な歌声と言葉に、僕はポップ・ミュージックの果てしない可能性を感じた。何を歌おうが結局はただの《綺麗事》だとして、それを認めた上で、それでもなお音楽を送り届ける理由があるとしたら、その《綺麗事》が、どこかの、いつかの、誰かを救い得ると心の底から信じているからだろう。この曲には、花譜が今まで歌を歌い続けてきた理由、これから歌を歌い続けていく理由、その全てが詰まっているのだと思う。
【5位】
SixTONES 「こっから」
2023年1月から幕を開けた全国ツアー「慣声の法則」。その初日には、追加公演として、京セラドーム公演2days、東京ドーム公演3daysの開催が発表された。ツアーの追加公演という名目ではあるが、それはまさしく、6人にとって、そしてファンにとって長年の悲願であった初の単独ドームツアーであり、彼らは、瞬く間にしてソールドアウトとなった全5日間のドーム公演を見事に完遂してみせた。同ツアー中、田中樹は、今回のドーム公演について、「ドーム辿り着いたぞって感じではなく、通過点として通らなきゃいけないところを通ることができる、だからみんなありがとうね、楽しみにしててね、って感じかな。」と語っていた。SixTONESにとって今回のドーム公演は一つの偉大な通過点に過ぎず、実際に、彼らの2023年の夏以降のアクションは、今後のさらなる快進撃を予感させてくれるものばかりだった。その最も象徴的なアクションが、"人人人"で切り開いたミクスチャーロック&ファンク路線をさらに果敢に突き進んでみせたシングル曲"こっから"のリリースだ。まるでワイルドサイドの極致へと豪快に突き抜けていくかのような同曲は、グループ結成以降、王道のジャニーズポップス路線を進むのではなく、あえてオルタナティブな道を切り開き続けてきた6人の真髄を凝縮した渾身の一曲である。特筆すべきは、6人全員による熾烈なラップリレーで、それぞれのメンバーが自身の野性を容赦なく炸裂させていく展開は本当に圧巻。"こっから"のリリースや、初の6人それぞれのソロ曲の制作をはじめとした新しい挑戦の数々は、きっと来週リリースされる最新アルバム『VIBES』へと結実していくはず。アイドルとしての信念と矜持を胸に、自分たちの表現の可能性を懸命に追求し続ける6人の歩みを、これからも全力で追いかけていきたい。
【4位】
Vaundy 「replica」
Vaundyの最新作『replica』は、2023年の、さらに言えば、2020年代の日本のポップ・ミュージックのシーンを代表すること間違いなしの大傑作アルバムだった。今作に授けられたタイトル『replica』は、「複製品」「模倣品」「オマージュ」などの意味を持つ言葉。今作は、「オリジナルはレプリカの来歴から生まれる。」というVaundyが掲げる理念を体現する作品であり、同作(特に、2023年の春以降に新しく制作した楽曲が大半を占めるDisc 1)には、先人たちからの影響を色濃く感じさせる、それでいて2020年代に鳴り響くべき洗練されたフォルムを誇るポップソングの数々が収録されている。Disc 1の最後に収録された楽曲「replica」(2番の歌唱方法、および、《Space Oddity》という歌詞からも明らかなように、この曲はデヴィッド・ボウイへのオマージュである)には、長年にわたり先人たちによって更新され続けてきた音楽史に向けて、自身の心情を直接語りかけるような歌詞がある。《原点はまた/その身に重ね/導くように僕らを廻す/そして、彼は模倣を称した。》先人たちへのリスペクトをもって新しい音楽を生み出すことで、長年にわたって紡がれ続けてきた音楽史を自らの手で更新していく。そうした営みが、何年後、何十年後、もしかしたら何世紀も後の表現者にとっての創作の糧や指針、原動力になるかもしれない。そこからまた新しい作品が生まれ、その時代を生きる人々に最新のポップ・ミュージックとして受容されていく。これまでの音楽史がそのように紡がれてきたように、これから先の未来も「レプリカ」の繰り返しによって紡がれていく。Disc 1のラストナンバー「replica」が最も象徴的なように、アルバム『replica』は、そうした音楽史の果てしないスケールと音楽の無類の可能性を、私たちリスナーに豊かな実感を通して伝える力を持つ大傑作であると、改めて強く思う。
【3位】
YOASOBI 「アイドル」
4月、リリースされたばかりのこの曲を初めて聴いた時、これは革命だと感じた。アーティスト別のストリーミング再生回数1億回突破作品数で1位の記録を自己更新中のYOASOBIは、まさに、このサブスク/プレイリスト時代におけるトップランナーであり、それ故に最近は、たとえどのような新曲がリリースされても、そしてそれがどのような痛快なチャートアクションをかましたとしても、もはや驚くことはあまりないだろうと個人的には思っていた。ただ、"アイドル"は別格だった。この曲は、最新型のGacha Pop、アニメ『【推しの子】』主題歌、メタ的なアイドルソング、というように様々な文脈を華麗に押さえまくった、超高機能、かつ、ハイコンテクストな楽曲で、何より、ikuraが誇るシンガーとしての壮絶なポテンシャルが容赦なく爆発しまくった一曲である。その結果として同曲は、史上最速でストリーミング再生回数5億回を突破、そしてその熱狂は海を超えて世界各国へと広がっていった。もはや、革命という言葉ですら、この現象のスケールを正しく言い表せていないとさえ思える。何より、6月のさいたまスーパーアリーナ公演、8月の「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」「SUMMER SONIC」でこの曲が披露された時の衝撃が忘れられない。曲が幕を開けた途端に会場が大きくどよめき、何度も繰り返して限界を突破し続けていく ikuraの歌に、怒号のような歓声やコールが重なっていく。この曲が誇るライブアンセムとしての爆発力は本当に圧巻だ。そして、一年の締め括りとして「紅白」でテレビ初披露された時には、数々の名だたる「紅白」出演アーティストとの豪華共演が実現。最高に痺れた。「2023年のヒット曲」を遥かに超越した、究極の国民的ポップアンセム。僕にとってこの楽曲と共に過ごした2023年は、驚きと興奮と、何より感動の連続の日々だった。
【2位】
米津玄師 「地球儀」
全国ツアー「空想」を観て、何よりも感動的だったのは、表現者・米津玄師を突き動かす原動力の正体を、豊かな実感を通して感じ取れたことであった。彼は、幼い頃からフィクションの世界、つまり「空想」の世界に強く惹かれ続けてきた。様々なクリエイターの作品に触れた経験、彼の言葉を借りれば、そうした数々の作品を「観てしまった」「聴いてしまった」「体験してしまった」経験が、強烈な、そして不可逆的な原体験となり、それが今もなお、彼を創作活動へと向かわせる原動力になっているという。米津はそれを、「祝福であり呪いなのかもしれない。」と言い表していた。彼が胸の内に抱く表現者としての業を言い表す言葉として、とても的確で、何よりも切実な言い回しだと感じた。そして、数ある作品の中で、彼が最も大きな影響を受けたのが、宮﨑駿監督が手掛けたファンタジー作品の数々である。米津は、宮﨑監督からの「信頼できる、大丈夫って。」という期待に真正面から向き合いながら、映画『君たちはどう生きるか』の主題歌として"地球儀"を制作した。そのシングルに同梱されている写真集には、宮﨑監督が完成した楽曲を聴いて涙する瞬間の写真が掲載されている。自らの創作の原点の一つであり、そして、現在進行形で新しい「空想(ファンタジー)」作品を創り続ける宮﨑監督に伴走しながら音楽を作り出した経験は、米津にとって、きっと何ものにも代え難い奇跡のような日々であったと想像する。《風を受け走り出す》《僕》が、これからも《飽き足らず描いていく》ことを力強く宣誓する同曲は、まさに、先人たちから次世代への継承のアンセムであり、数ある米津の楽曲の中でも特に深い感動を呼び起こす一曲であると僕は思う。
【1位】
BUMP OF CHICKEN 「窓の中から」
私たちは誰しも、本質的に孤独である。それでも、一人ひとりがそれぞれの心の窓の中から、音楽を通してお互いを見つけ合うことができる。そして、そうした豊かな音楽的コミュニケーションを通して得た《これからの世界は全部/ここからの続きだから/一人で多分大丈夫》という温かな確信を胸に、私たちは、一人ひとりのまま、その先に続いていく自分だけの人生を力強く生きていくことができる。この《同じように一人で叫ぶあなたと 確かに見つけた 自分の唄》は、かつてないほどに高い精度でポップ・ミュージックの本質を射抜いた楽曲であり、そして、これまでBUMP OF CHICKENが長年にわたり懸命に伝え続けてきた渾身のメッセージを凝縮した集大成的な一曲でもある。ポップ・ミュージックの存在意義、そして彼らが音楽を作り続ける理由、ライブのステージに立ち続ける理由、この曲には、その全てが詰まっている。あまりにも感動的な一曲であると思う。そして言うまでもなく、この曲はライブの場で観客の声が重なることで初めて真価を放つナンバーである。僕は、5月のさいたまスーパーアリーナ公演で、この曲に一人ひとりの観客の声が重なっていく圧巻の光景を前にして、今まで味わったことのないような無類の感動が押し寄せてくるのを感じた。ライブが終わった後も、いつまでも心の中に残り続けている晴れやかな余韻。一人ひとりの《自分》と《あなた》の自分だけの歩みを高らかに祝福するこの曲は、今後、"ray"と並ぶようなBUMPの新たなライブアンセムの一つとして、私たちが胸に抱く孤独に優しく寄り添い、そして、強く心を奮い立たせ続けていくのだと思う。
2023年、僕の心を震わせた「邦楽」ベスト10
【関連記事】