夏の佳品、冷や汁研究~有賀薫のスープ旅・宮崎編
2024-08-09 有賀 薫
さて、先日大分・臼杵の記事をアップしましたが、その後日南線に乗って宮崎へ移動しました。今回はそのレポートです。
宮崎でご当地の汁物といったら、なんといっても冷や汁です。冷や汁は、きゅうりや豆腐、ごまの入った冷たい味噌汁。ごはんにザブザブとかけて食べるもので、暑い夏でも気持ちよく喉を通ります。
冷や汁そのものは全国に散見されますが、とくに南国・宮崎の郷土汁として有名です。多くの郷土汁が、すでに一般家庭では作られなくなっていることも多い中、宮崎の冷や汁は今でも非常にポピュラーで、宮崎県内だけでなく全国的にも広がりを見せている伝統食の優等生。私もこの冷や汁は夏になるとくりかえし作ります。
と、いうことで暑さ絶頂の8月、満を持しての冷や汁研究。レシピと合わせてお届けします。
宮崎で初の冷や汁体験
まずはこちらへ出かけました。宮崎の郷土料理ならここと教わった『ふるさと料理 杉の子』です。
宮崎の郷土料理であるさつま揚げやチキン南蛮など、宮崎名物を注文。端正でありながら、気取りのない質実な料理の数々。席もゆったりと落ち着いて食べられます。
冷や汁は、食後の〆として運ばれてきます。
見た目は極めて地味。
冷や汁の作り方ですが、宮崎では、いりこ(煮干し)、あるいは焼いた干物をすり鉢でよくすり、胡麻や味噌と合わせて練ったものを直火で炙った焼き味噌を水でのばして作ります。
具や薬味としてはキュウリ、豆腐、みょうが、青じそがポピュラーですが、ピーナツや焼きナス、たまねぎなどを入れることもあるようです。
見た目はいまいちながら、焼いた魚や味噌の持つうまみと香ばしさ、ゴマのコク、キュウリのパリパリとした歯ざわり、そしてみょうがや青じそのさわやかさ。とにかく食感と香りが豊かなのです。
麦の産地である九州では味噌は麦みそ。これもまたさわやかな風味を添えています。暑い日の食事はもちろん、飲んだ後にサラッと食べるにも、つくづくいいものです。
伝統の冷や汁を解剖してみる
宮崎の冷や汁のルーツは?
冷や汁を食べた翌日は、宮崎の郷土料理に関するこんな本を購入。
写真右の『みやざき味ごよみ』は食事を終えてお会計のときお店の方と話をして、この店が掲載されているということで購入してみました。宮崎の風土や食材、それに伴う食文化が垣間見えます。
写真左の『冷や汁万歳』は、冷や汁を作り続けている方々に取材し、お話とレシピを掲載した本。冷や汁の背景や食べ注がれている様子などもよくわかり、今回非常に参考になりました!
とくに宮崎県西都市で伝統食の冷や汁を伝える活動している「冷や汁保存会」の記事が、宮崎の冷や汁をつかむのにとても参考になりました。
つまり
●いりこ
●味噌
●きゅうり
●冷たい水
これが伝統的な冷や汁の骨組みだということです。
私は、冷や汁は焼いた干物を使うレシピが本格的なものだと思っていたのですが、いりこの代用なんですね。(ちなみに引用文中の「火ぼかし」は「炙る」という意味です)
冷や汁の基本1:炒ったいりこをする
基本の冷や汁は、食材はシンプルながらも、しっかり手間をかけた料理です。私も本を参考に、昔ながらの冷や汁を想像しながら作ってみました。
最初のポイントは、いりこを炒って、すり鉢で細かくする工程。ややめんどうに感じますが、こうすることでうまみが水に溶け出しやすくなり、さらに全て食べてしまえるので栄養的にもいいわけです。
そもそも井戸水を汲んでいた時代です。手間というものが今の私たちの感覚とは比較になりません。
いりこはフライパンで炒ると、香りのグレードがぐっと上がります。
いりこが粉になったら、続いて白ごまも加えて軽くすります。することでごまがつぶれて香りが立ちます。
現代的なレシピにするなら、ミルやミキサーなどですね。すり鉢ですったものの細やかさにはかないませんが、十分だと思います。
冷や汁の基本2:味噌を炙る
もうひと手間が、すったいりこの粉とごまに味噌を混ぜ、火であぶるという工程。すり鉢なら、そのまま火にかけられます。
作っているとこの時点で焦げた味噌の香りがただよって、わくわくが止まりません。
冷や汁の基本3:具はきゅうり、ごはんは麦飯
ここまでできたら、あとは水で伸ばして具材を入れるだけ。なくてはならないのは薄切りのきゅうり。ミニマルなレシピにはないようでしたが、個人的には豆腐はマストで入れたいところ。
水は2人分で350から400ml、よく冷やしておいたものを使います。
冷や汁はその名の通り、しっかりと冷やすのがコツ。冷蔵庫に入れておく間に、きゅうりや豆腐にも味が染みて漬物みたいになり、それがおいしいなあと思うので、私は食べる数時間前に作っておきます。
ごはんは、熱々でも、冷や飯でも。冷や汁には麦飯が定番……というより、そもそも冷や汁という料理が麦飯を食べやすくするために考案された料理ということなので、ここは麦飯でいきたいところ。九州の味噌は麦味噌が多いので相性もよいですし、麦のサクサクした食感も良いものです。
食べるときに、好みで薬味のみょうがや青じそをあしらって。
さて、ここまでが宮崎の作り方にのっとった方法です。宮崎でも今ではきゅうりや豆腐のほか、たまねぎやピーナッツ、焼き野菜、魚では鯛やかますなど、おいしく作る工夫や素材がいろいろと加えられています。
とはいえ「味噌、いりこの粉、きゅうり、冷たい水」という冷や汁の骨組みを感じつつ工夫していくと、さまざまなバリエーションが作れそうです。
考察はこのぐらいにして、ここからはより手軽に作る方法や、さまざまな冷や汁レシピをお伝えしていきます!
もっと簡単に。ミニマル冷や汁レシピ
いりこをするのが本格的なやり方ですが、今ではすり鉢のない家庭も多いと思います。すり鉢いらずで超かんたんに作れる冷や汁のレシピを考えてみました。
いりこの代わりに、だしパックを破って使います。あるいはだし用に売られているいりこの粉や、かつお節の粉を使っても構いません。
本格的な作り方に比べて風味はさすがにかないませんが、これぐらい簡単にできるなら、日々の食事に無理なく取り入れられそうです。
ミニマル冷や汁
▼材料 2人分
煮干しのだしパック1袋、またはいりこの粉大さじ2
味噌 大さじ3(麦味噌ならさらによし)
すりごま 大さじ2
きゅうり 1本
豆腐 100g
水 350〜400mL
▼作り方
1
だしパックを破ってボウルにあけ、味噌、すりごまを混ぜる。
アルミホイルに塗り付け、オーブントースターで焦げ目がつくまで焼く。
2
焼いた味噌をこそげとってボウルに入れ、水350mL前後を少しずつ加えて伸ばす。薄切りのきゅうりと手でくずした豆腐を加え、冷蔵庫でよく冷やす。
3
ご飯にかけて食べる。好みで青じそやみょうが、青ネギの千切りやみじん切りなどをふってもよい。
わたしの冷や汁レシピ・リンク集
ミニマル冷や汁のレシピ、いかがでしょうか。私もこれまでネットや本などから見よう見真似で作ってきた冷や汁ですが、今回の宮崎旅で輪郭がはっきりしたなと思います。
とはいえ、今出している私の冷や汁レシピも缶詰を使ったり、レンジを利用したりして、なるべく手間をかけずに作れるように工夫してあります。リンクを貼っておきますので、お好みのものをお試しください。
焼きサバときゅうりの冷や汁
市販のサバ塩焼きを使って香ばしさを出したレシピです。
野菜と豆腐のシンプル冷や汁
こちらは魚を使わないシンプル冷や汁。みなさんの家によくある、パックのかつおぶしを使いました。
きゅうりとツナ缶、たまねぎの冷や汁
オンラインライブで紹介したレシピ。タマネギ入りで、甘くておいしいです。
ナスとサバ缶の冷や汁
ちょっと変わり種の、ナスの冷や汁。サバの味噌煮缶を使って楽に味つけ。
トマトとバジル、サバ缶の冷や汁
ちょっとおしゃれに洋風冷や汁。細いパスタやそうめんにも合わせるとカッペリーニ風です。
スープ旅で出会った「すったて」
「すったて」と呼ばれる、埼玉県川島町の冷や汁を取材しました。こちらはうどんのつけ汁としていただきます。ごまやたまねぎをすって作るのがポイントです。
動画ですったての取材とレシピを紹介しているので、ぜひご覧ください。
お好みの冷や汁は見つかりましたか?私以外にも、多くの料理家さんがそれぞれの冷や汁レシピを残していらっしゃいます。
どれもおいしそうですし、それぞれの好みや、家にある食材でおいしく食べてもらえたらいいのではないかと思います。
そして、もし気に入ってくださったら、一度は宮崎で冷や汁を食べてみてください!
おまけ:冷や汁以外の、宮崎おいしかったもの
宮崎では冷や汁以外にも、いくつかおいしいもの食べてきましたのでちょっと紹介しておきますね。
やはり鶏料理は外せませんね。炭火焼は専門店があちこちにありますが、繁華街にある「ぐんけい」で。
これも宮崎名物、チキン南蛮。レトロな雰囲気ただよう名店「おぐら」のチキン南蛮です。ボリュームすごい!
宮崎では、うどんを食べてくださいと言われ、朝イチで「きっちょううどん」へ。やわやわのうどんが、透明なだしに入っています。しっかりした味のだしで、おいしかったです。
宮崎といえばフルーツ、そしてマンゴー。こちらは市内のデパート「山形屋」の地下のフルーツ売り場併設のカフェ。大当たりでした。
宮崎のおいしいもの、たっぷりいただきました。ごちそうさまでした。
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日本全国、汁物を訪ねるスープ旅!
各地にある郷土のスープや食材を探して紹介する動画を発信しています。
こちらは滋賀の琵琶湖です。よろしければご覧ください。