2023年上半期、僕の心を震わせた「邦楽」ベスト10

2023-07-30 松本 侃士

ライター活動を始めた2018年の年末から、「僕の心を震わせた〜ベスト10」と題した邦楽・映画の年間ランキングを発表し、2019年の年末からは洋楽を含めた3つのランキングを発表し続けてきた。また、2019年からは、その年の中間報告として、毎年6月末頃に上半期のベスト10をまとめてきた。

今年からは、スケジュールなどの兼ね合いで、上半期のランキングをまとめるのをストップして年末の年間ランキングのみ発表する形にしようと考えていたけれど、やはり、邦楽のみ、どうにか時間を作って上半期のベスト10を書き記しておくことにした。そう思えるほどに本当にたくさんの素晴らしい楽曲と出会えたことが、一人の音楽リスナーとして心から嬉しい。

年末には、例年のように2023年の年間ランキングを発表したい。新たに下半期に出会う楽曲がランクインしてくるはずなので、その時にはまたラインナップが変わっているかもしれないけれど、今回は、今年の上半期の記録として、僕が大きな感銘を受けた邦楽10曲をランキング形式で紹介していく。この記事が、あなたが新しい音楽と出会う一つのきっかけになったら嬉しいです。




【10位】
櫻坂46 「静寂の暴力」

2022年の年間ベストで、乃木坂46の5期生楽曲"バンドエイド剥がすような別れ方"をピックアップした時に書いたことにも通じるように、今、それぞれの坂道グループは、先輩メンバーが大切に育み続けてきた各グループの精神性を、次の世代のメンバーが継承していく過程にある。それは各グループの新メンバーに授けられている期別楽曲を聴けば明らかで、例えば、今年発表された日向坂46の4期生楽曲"シーラカンス"、"見たことない魔物"は、日向坂の真髄を凝縮したような晴れやかで快活なポップチューンだった。では、櫻坂46の3期生に授けられた期別楽曲はどうか。全てのはじまりの一曲"サイレントマジョリティー"を想起させる"静寂の暴力"のミュージックビデオを観て感じたのは、この曲は、そして彼女たちのパフォーマンスは、欅坂46時代から脈々と受け継がれてきた反骨の精神性を秘めていながら、同時に、まっすぐに逆境に立ち向かうパワフルさとは似て非なる美麗なしなやかさを誇っている、ということだった。僕はこの曲に、「継承」と「アップデート」の両方の意義を感じ取って、櫻坂46の未来がますます楽しみになった。


【9位】
TOMOO 「夜明けの君へ」

一昨年に"Ginger"を、昨年に"オセロ"を初めて聴いた時、TOMOOが誇るソングライティングの才能の大きさに触れて圧倒されたのをよく覚えている。そして今年に入ってからも、"Cinderella"、"夢はさめても"という非の打ち所がない上質なポップスが立て続けにリリースされ、そしてついに彼女が誇るポテンシャルを世に広く知らしめる決定打となる一曲が届けられた。それが、森七菜&奥平大兼がダブル主演を務めた映画『君は放課後インソムニア』の主題歌に起用された"夜明けの君へ"だ。ピアノの弾き語りを基調としたシンプルなバラードではあるが、歌のメロディが誇るスケールは今まで以上に大きな広がりを見せていて、同時に、"Cinderella"で果敢に追求したサウンドの豊かな深みも兼ね備えている。この渾身の一曲が、映画とのコラボレーションを通してたくさんの人の耳に届いたことは、間違いなく、今後の彼女の活動のスケールがさらに何段階も引き上がる大きなきっかけになるはず。また、今年の「JAPAN JAM」でライブを観た時、昨年の夏に観た時と比べて、ポップ・ミュージシャンとしての華がグッと増していて驚いた。大ブレイクの日は近いと思う。


【8位】
asmi 「ドキメキダイアリー(feat. Chinozo)」

MAISONdesの"ヨワネハキ feat. 和ぬか,asmi"や"アイワナムチュー feat. asmi, すりぃ"、また、Mrs. GREEN APPLEの"ブルーアンビエンス (feat. asmi)"や、meiyoの"なにやってもうまくいかない(feat.asmi)"などの数々のヒット曲を通して、asmiの声に一度は触れたことがある人は多いはず。いろいろなクリエイターたちからコラボレーションを求められる彼女の歌声は、まさに時代の声だと思う。そして、彼女自身のオリジナル楽曲も素晴らしいものばかり。長い間、僕の中ではmeiyoが制作を手掛けた"PAKU"のイメージが強かったので、今回、快活なバンドサウンドを全面に打ち出した"ドキメキダイアリー(feat. Chinozo)"を聴いた時は驚いた。何より、無軌道に駆け抜けるジェットコースターのような予測不能な展開の中で、軽やかに、しなやかに、そしてカラフルなポップフィーリングを全方位に放ちながら爆走し続けるasmiの歌に痺れまくった。個人的に、今最もライブを観たいアーティストの一人で、昨日のMAISONdesの初ライブにおけるライブパフォーマンスも最高だった。また、カップリングとして収録されている自作曲"ずっと"も非常に素晴らしい楽曲で、今後、彼女のソングライターとしての一面にも今まで以上に光が当たっていくはず。


【7位】
NEE 「生命謳歌」

コロナ禍が明け、ライブシーンが完全復活を果たした2023年上半期、僕は、ロックシーン新時代の到来を何度も肌で感じ取ってきた。特に、WurtS、PEOPLE 1、Chilli Beans.をはじめとした新しい価値観を持ったアーティストの大躍進に僕は大きな希望を感じていて、そしてすぐに、NEEもポスト・コロナ時代を牽引する最重要バンドの一つになると思う、どころか既になっている。特筆すべきは2ndアルバム『贅沢』で、これがとてつもない覚醒感を放つ大傑作だった。"本日の正体"、"月曜日の歌"、"緊急生放送"をはじめアンセミックなメロディを誇る輝かしい楽曲が堂々と並んでいて、その中でも特に"生命謳歌"が素晴らしい。不安定で不透明で、そして不条理なこの世界を共にサバイブするリスナーたちに向けたメッセージは今まで以上に強靭に磨き込まれていて、特に《生命謳歌、歌います/贅沢に響かせてます/馬鹿になっても僕が歌うのは/貴方を守るため》という一節に、彼らの表現者としての深い覚悟を感じた。今、数え切れないほど多くのリスナーがNEEのロックに救われていて、その繋がり合いのスケールは、これから日を重ねるごとにさらに拡大し続けていくのだと思う。


【6位】
RHYMESTER 「Open The Window feat. JQ from
Nulbarich」

約6年ぶりのリリースとなった渾身の最新アルバム『Open The Window』は、長いキャリアを通して数々の金字塔を打ち立ててきたRHYMESTERにとって、新たな、そして決定的な代表作になると思う。果敢に、柔軟に、次々と新しい「窓」を開き続けてきたからこそ生まれた数々のコラボレーション楽曲が伝えてくれるのは、ヒップホップというアートフォームが誇る果てしない可能性である。彼らはこれまでも、ジャンルや世代を軽やかに越境しながら、シーンに新しい価値観を提示する作品を作り続けてきたし、そのスタンスは今作にも貫かれている。そうしたコラボレーションが素晴らしい音楽として結実するのは、大前提として、彼らの中にコラボ相手に対する深い愛と理解、そして敬意があるからであり、今作にも、"My Runway feat. Rei"、"なめんなよ1989 feat. hy4_4yh"をはじめとした相思相愛のコラボ楽曲がいくつも収録されている。その中でも僕が特に感動したのが、アルバム表題曲"Open The Window feat. JQ from Nulbarich"だった。鮮烈に「反戦」を訴える楽曲ではあるが、ただ単に《Stop the war》《No more war》と叫ぶだけではない。「窓」を開き、他者と繋がることで生まれる相互理解と連帯の可能性。その微かでも確かな輝きを温かな実感を通して感じさせてくれるこの曲は、反戦歌を超えた普遍的なメッセージソングとして、2023年という今この時代にあまりにも深く響く。


【5位】
花譜 「邂逅」

この数年間、僕は、何度も花譜の音楽に強く心を動かされ続けてきたけれど、初めて聴いた時、涙を抑え切れなくなるほどに感情を激しく揺さぶられた楽曲は、この"邂逅"が初めてだった。この歌は、《世界平和なんて嘘だ 皆一人ぼっちだ》という悲痛な現実認識から幕を開ける。それでも、歌うしかない。歌うことで、音楽を通して、この現実に対して抗っていくしかない。花譜は、何度も声を震わせ、昂らせながら、胸の内の感情の全てを余すことなく共有していく。歌うことを通して、この世界のどこかで自分と同じような孤独を抱く《君》を鼓舞しようとする。それでも、《世界平和なんて嘘だ 皆一人ぼっちだ》という結論は変わらない。《何でもかんでも言い訳して/触れ合うことを恐れてる/僕もきっとそうだ 君もきっとそうだ/心が動くのが怖いのだ》それでも、そうだとしても、彼女は歌い続ける。その後に続く、エモーションの極致に至る至極の展開、その切実な歌声と言葉に、僕はポップ・ミュージックの果てしない可能性を感じた。何を歌おうが結局はただの《綺麗事》だとして、それを認めた上で、それでもなお音楽を送り届ける理由があるとしたら、その《綺麗事》が、どこかのいつかの誰かを救い得ると心の底から信じているからだろう。この曲には、花譜が今まで歌を歌い続けてきた理由、これから歌を歌い続けていく理由、その全てが詰まっているのだと思う。

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【4位】
millennium parade × 椎名林檎 「W●RK」

強烈なロックバイブスを放つ鋭利で重厚なギター。その轟音に負けじと豪快に鳴り響くホーン。極彩色の彩りを加えていく鮮烈なシンセサイザー。そして、King Gnuのリズム隊の2人が強靭なビートで後方支援をして、その上で、椎名林檎と常田大希の熾烈なマイクリレーが展開されていく。とてつもない情報量を誇る楽曲でありながら、一つひとつの音と言葉が決して散り散りになることなく鮮やかに収斂していき、そして、次第に昂るエモーションが極限に達するサビにおいて洗練された覚醒感がもたらされる。圧巻だ。今回実現したmillennium paradeと椎名のコラボレーションは、まさに日本のポップ・ミュージック史に深く刻まれるべき事件のような出来事であり、その結果、そしてその必然として、壮絶な覇気を放つ弩級のロックアンセムが生まれた。その事実に、強く心を震わせられた。そして僕はこの曲を聴いて、椎名と常田の間に生まれているであろう、単なる先輩と後輩という間柄を超えた深い連帯を感じ取った。その連帯とは、表現者としての業を背負い、真摯に、妥協なく、自身が理想とする世界を徹底的に追求し続けてきた2人の間にこそ生まれ得る深い繋がりである。今回、2人の邂逅による爆発的なケミストリーが起きているのは、それ故の必然であり、これはただの願望も込みの推測に過ぎないが、両者のコラボは今回限りでは終わらない予感がしている。

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【3位】
SixTONES 「こっから」

4月にリリースされた"ABARERO"は、まるで全てのパラメータを攻撃力に全振りしたかのような超ハードなHIPHOPナンバーだった。初のドーム公演(京セラドーム大阪公演2days/東京ドーム公演3days)を目前に控えたタイミングで、史上最も攻めた楽曲をシングルとして切ってくるエッジーなスタンスには本当に痺れたし、同時に、この曲は彼らにとっての変化球ではなく、むしろ新しい王道になる予感さえした。そして立て続けにドロップされた"こっから"を聴いて、その予感は確信に変わった。まるでワイルドサイドの極致へと豪快に突き抜けていくかのような同曲は、グループ結成以降、王道のジャニーズポップス路線を進むのではなく、あえてオルタナティブな道を切り開き続けてきた6人の真髄を凝縮した渾身の一曲だ。特筆すべきは、6人全員による熾烈なラップリレーで、それぞれのメンバーが自身の野性を容赦なく炸裂させていく展開は本当に圧巻。この1〜2ヶ月の間で、いくつかの音楽番組で同曲をパフォーマンスする姿を観てきたが、ステージを重ねる度に6人のギラギラとした覚醒感が増していて、そのポップスターとしての堂々たる佇まいに強く心を動かされた。ドーム公演という偉大な通過点を経て、さらにギアを上げて快進撃を続ける彼らは、今後どのようなアイドルグループになっていくのか。今はまだ、全く想像もつかない。

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【2位】
YOASOBI 「アイドル」

ストリーミング再生回数1億回を突破した楽曲を14曲も誇るYOASOBIは、まさに、サブスク/プレイリスト時代における卓越したトップランナーであり、それ故に最近は、どんな新曲がリリースされても、そしてそれがどのような痛快なチャートアクションをかましたとしても、もはや驚くことはあまりないだろうと個人的には思っていた。ただ、"アイドル"は格別で、初めて聴いた時に鳥肌が立ったことを今でもよく覚えている。最新型のGacha Pop、アニメ『【推しの子】』主題歌、メタ的なアイドルソング、というように様々な文脈を華麗に押さえまくった超ハイコンテクストな楽曲で、かつ、ikuraが誇るシンガーとしての壮絶なポテンシャルが容赦なく爆発しまくった一曲になっている。そしてもっと恐ろしいのは、この曲は、ライブのステージで披露されることで、音源よりもさらに何倍も化けることだ。先日のさいたまスーパーアリーナ公演のアンコールで同曲が披露された時、ikuraの歌は、音源の再現にとどまるどころか、何度か限界突破していた。そのあまりにも凄まじすぎるパフォーマンスに、会場中で決して小さくはないどよめきが起きまくっていた。"アイドル"が2023年の日本の音楽シーンを代表する一曲になることは既に決定的であるが、同時に、今後この曲は、究極のライブアンセムとして数々のフロアを沸かしていく必殺曲になっていくと思う。夏の「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」や「SUMMER SONIC」でも大爆発するはず。


【1位】
BUMP OF CHICKEN 「窓の中から」

僕たちは誰しも、本質的に孤独である。それでも、一人ひとりがそれぞれの心の窓の中から、音楽を通してお互いを見つけ合うことができる。そして、そうした豊かな音楽的コミュニケーションを通して得た《一人で多分大丈夫》という温かな確信を胸に、僕たち一人ひとりは、その先に続いていく自分だけの人生を力強く生きていくことができる。この《同じように一人で叫ぶあなたと 確かに見つけた 自分の唄》は、かつてないほどに高い精度でポップ・ミュージックの本質を射抜いた楽曲であり、そして、これまで彼らが長年にわたり懸命に伝え続けてきた渾身のメッセージの全てを凝縮した集大成的な一曲でもある。ポップ・ミュージックの存在意義、そして彼らが音楽を作り続ける理由、ライブのステージに立ち続ける理由、この曲には、その全てが詰まっている。あまりにも感動的な一曲であると思う。そして言うまでもなく、この曲はライブの場で一人ひとりの観客の声が重なることで初めて真価を放つナンバーである。僕は、5月のさいたまスーパーアリーナ公演で、この曲に一人ひとりの観客の声が重なっていく圧巻の光景を前にして、今まで味わったことのないような無類の感動が押し寄せてくるのを感じた。ライブが終わってしまったら、僕たちはそれぞれの日常へと戻っていく。それでも、《これからの世界は全部/ここからの続きだから/一人で多分大丈夫》という揺るぎない確信を胸に、自分の人生を強く生きていくことができる。一人ひとりの《自分》と《あなた》の生き方を力強く肯定するこの曲は、今後、"ray"と並ぶようなBUMPの新たなライブアンセムの一つになっていくと思う。


2023年上半期、僕の心を震わせた「邦楽」ベスト10

【1位】BUMP OF CHICKEN 「窓の中から」
【2位】YOASOBI 「アイドル」
【3位】SixTONES 「こっから」
【4位】millennium parade × 椎名林檎 「W●RK」
【5位】花譜 「邂逅」
【6位】RHYMESTER 「Open The Window feat. JQ from Nulbarich」
【7位】NEE 「生命謳歌」
【8位】asmi 「ドキメキダイアリー(feat. Chinozo)」
【9位】TOMOO 「夜明けの君へ」
【10位】櫻坂46 「静寂の暴力」



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