ほんのひととき

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「焦りや勘違いもあったけれど 時を経て楽になりました」山崎ナオコーラ(小説家、エッセイスト)|わたしの20代

 幼稚園の頃から人見知りだった私は、本だけが友達。だから「いつか本を書く人になりたい」と思っていました。国語はずっと得意でしたね。特に古文は、大学受験の勉強で、良い参考書と予備校の先生に出会ったこともあって、すごく成績が良かったんです。古文がなければ大学に入れなかったのではないでしょうか。 ただ、大学4年になるまで小説はまったく書いていませんでした。書き始めたきっかけは、源氏物語をテーマにした卒業論文です。これだけ長い文章が書けたから小説もいけるかもと思って書いたものが、

リスボンで故郷を想う 川添 愛(言語学者、作家)

 遠藤周作が長崎を訪れたときにキリシタン禁教時代の踏み絵を見て、そこから小説『沈黙』の着想を得たのは有名な話だ。私は長崎の出身だが、地元で踏み絵を見たことはない。私が生まれて初めて見た踏み絵は、ポルトガルのリスボンにある美術館に展示されていたものだった。 リスボンに行ったのは、もう二十年近く前のことだ。空港からタクシーで市街地に入ると、壁がボロボロの建物が並び、なんだかとんでもないところに来てしまった気がした。街を歩いていてもけっこうゴミが目につき、病院の前を通りかかった

崎陽軒のポケットシウマイと横濱月餅(神奈川県横浜市)|柳家喬太郎の旅メシ道中記

旅のお供のポケットシウマイ あんまり大きな声じゃあ言えませんけどね、今回は横浜を陰で支配する闇の組織の話です。その組織が営む店は、横浜駅と周辺のそこかしこにある。東海道線下りホーム、京急横浜駅中央改札、相鉄線横浜駅改札外、間口は狭いけどみなとみらい線横浜駅の改札内にも……。恐ろしいことに、多くの横浜市民が、その組織の食べ物に身も心も奪われているんです……そう、崎陽軒に“シウマイ漬け”にされているんですよ‼︎ ってのは冗談で、横浜の落語会でよく話すネタ。何を隠そう僕自身横

愛する五反田を離れるにあたって|岡田悠(ライター兼会社員)

引っ越しが好きだ。かなり好き。世のなか面白い街がたくさんあって、東京だけでも数えきれない。ふと降りた駅前が魅力的だったら、「よし、住もう」と思う。そして数ヶ月後に引っ越してしまう。そんな生活を続けてきた。すべての街に住むためには、人生はあまりに短い。「住む街を変えれば、人生が変わる」みたいなことをたまに聞くが、その理論でいけば、僕の人生は波瀾万丈だ。ただ引っ越し好きの僕でも、五反田という街だけは別だった。なんと8年間も住んでしまった。厳密には五反田エリア内で何度か引っ

「よちよち歩き」で樹を上るエゾモモンガの赤ちゃん|愛しい北海道ANIMALS

写真を始めた頃は会えると思っていなかった、憧れの動物だったエゾモモンガ。あの可愛い姿を撮影するのはとても大変。やっとの思いで巣穴を見つけても夜行性の動物、警戒すると真っ暗になるまで出てきてくれません。撮影できるまでには本当に多くの時間を要しました。冬は深い雪の中、カメラが使えなくなるほどの寒さに耐えなければならなかったり、赤ちゃん誕生の時期には虫に刺されていてもじっと我慢するしかなかったり……。それだけに、うまく撮影できた時の喜びは本当に大きなものでした。夜行性のエゾモモ

日本の花火のはじまりの地、愛知県三河地方・岡崎へ

にっぽんの夏。夏の花火。灼熱の太陽がようやく沈み、ほっと息をつく夜が来るころ、漆黒の空に花火が打ち上がる。ひとつ、ふたつ。そして無数に、次々と。鮮やかな光が花開き、破裂音がどんと身体を震わせる。日本に暮らす私たちにとって、花火とは懐かしい、夏の記憶そのものだ。 江戸時代から続く奉納花火 菅生神社おおらかに流れる乙川のほとりを散歩やジョギングを楽しむひとたちとすれ違いながら歩いていく。愛知県岡崎市は徳川家康の出生地だ。家康の生まれた岡崎城の城下町、そして東海道の宿場町として

大迫力! 頭上を滑空するアフリカハゲコウ(山口県美祢市)|ホンタビ! 文=川内有緒

 2011年、山口県のある動物園から1羽のアフリカハゲコウが行方不明になった。翼を広げると体長2・5メートルにもなる大型の鳥で、名前はキン。動物園関係者は必死に捜索を続けていた。 9日後、キンは約600キロも離れた和歌山県内で保護された。飼育を担当していた大下梓さんは、キンと再会したとき涙をこぼした。「もう奇跡でした」 通常、動物園がロストした鳥を見つけるのはとても困難だからである。 そもそも、なぜキンは遠くまで飛んでいってしまったのか──。 脱走? いや

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