【RX 高岡】 2024.09.01 UCI Granfondo World Championship M45-49 優勝

2024-09-05 akihiro.takaoka

(見出し写真:©Michael Bo Rasmussen / Baghuset)


Dream comes true

ついにやった。
UCI公認の世界チャンピオンになることができた。
間違いなく今までの自転車人生の中でも一番の偉業だと思っている。

「世界チャンピオンになる」というのは自転車を続けていく上で非常にチャレンジングだけど絶対不可能ではない目標設定としてちょうど良いと感じていた。

UCIレースの表彰台の真ん中で君が代を聞く。
感無量。泣くかと思っていたけど、涙は出なかった。

アルカンシェルという虹色が入った純白のジャージを着られる。
UCIの表彰式の真ん中に立ち日の丸を聞く。
これらはまさに夢だった。

レインボーまでの道のり

グランフォンドとはUCIが規定するアマチュアのロードレース。
数ある自転車競技の中で一番好きなロードレース。
その世界選手権に出てみようとフランスはアルビに飛んだのが2017年。
それまでにツールドおきなわを4回勝っていて、それを追求するのも楽しいけど、何か新しい刺激を求めていたのかもしれない。

トゥールーズから入りAlbiという聞いたことない街まで移動しての遠征は非常に楽しく思い出に残っていて、思えば一つの大きなターニングポイントだったのかもしれない。
アルビではまさに”ビギナーズラック”で2位。
アルカンシェル=世界チャンピオンというのは自分にも非現実的なモノではないと認識できた。
UCIの表彰式の格式を感じ、その上で国歌を聞くのはどんなに素晴らしいことだろう。

2017 ALBI

2017 アルビ(フランス) 2位(M40-44)
2019 ポズナン(ポーランド) 3位(M40-44)
2021 サラエボ(ボスニア・ヘルツェゴヴィナ) 2位(M40-44)
2022 トレント(イタリア) 5位(M45−49)
2023 パース(イギリス) 遅刻、30何位か(M45-49)

2019 Poznan

5回出て3回表彰台というのは、自分とは相性が良いと言える。
ジャパンカップやニセコクラシックのように、勝ちたいという気持ちはあるけど何か噛み合わずに勝てないレースがある一方、おきなわと世界選手権は確実に自分とは相性が良いレース。

2021 Sarajevo

しかし、シーズン通して自分と向き合っていると、ヒトとしての機能が低下傾向にあるのは認めざるを得ない事実。直近3回でAgeカテゴリーが上がったにも関わらず成績が低下傾向なのも気味が悪い。

「いつかは世界チャンピオン」

今年のレースもそうだけど、もし今年ダメでも諦めずに追い続けたい。
そういう意味も込めて、最後まで絶対に諦めないと自分に言い聞かせた。
出発前に同宿の仲間にも「最後まで諦めないで走ろう」と伝えた。
細かいテクニカルなアドバイスよりも最後に物を言うのはよりシンプルに気持ちの持ちようだ。

レースプレビュー

レース後にプレビューを書くのも変だが、レースレポートを読む前に事前情報として知っていただきたいことを。

コース

デンマーク北部の街AALBORGをスタートして大きな周回を反時計回り。
ギザギザのアップダウンの高低差は100m未満。最高標高でも80m台。スピードコースであることは間違いないけど、コーナーが多く農道みたいな狭い道も多い。つまり登りでバラけない大人数が細くてくねくねした道を走るので、かなり気を遣うし落車のリスクも高い。

人数と道幅

今年の大会は過去一の参加人数。19−34に至っては400名以上。
私の45−59カテゴリーも2番目に多く、290名以上のエントリー。
この人数が一斉にスタートして、しかも最初は街中で危険が多い。
いかにして無事先頭まで出られるかが最初の関門。

街中

スタート後・フィニッシュ前や途中で通過する街なかで中央分離帯やラウンダバウトなどの障害物も多く、非常に気を遣う。
自分は何度も試走したが、試走せずにそのくせ無謀に危険予知せずに走る人が必ずプロトンにはいるので要注意。

また吹きっさらしの丘陵地帯も多く風で厳しい展開になるのも予想される。
ただ、風が強いと前に出たくない心理が働くので、プロチームのように組織的に動くことがないアマチュアレースにおいては走り方によってタイム差がつきやすい。
つまり、逃げたいという意思統一が効く少人数集団に対してサボりたい人が多い大集団の速度は上がりにくい。
本来皆が先頭牽引を少しずつ負担すれば効率よく走れるのだが、それをしたくない人が多いと力がある人も自分の力を無駄に使いたくないという心理が働いて機能しにくい。

天気

予報では10−20℃。こちらは山が少ないからか天気予報の精度が非常に高いと感じた。入国してから最高25℃前後の過ごしやすい気候だったが、レースの日曜朝は少し肌寒くなったので、Very HotオイルとBody Butterを脚と身体にたっぷり塗った。
レース後半に上がって20℃くらいだったが、寒くもなく暑くもなく、ちょうどよい気候だったと思う。
なんせ滞在期間中ほぼ雨に降られなかったのは幸運だった。

フィニッシュ前

フィニッシュ地点のレイアウトは非常に良くなくて、ラスト300mほどは下り基調で直角コーナー曲がって150mほどでフィニッシュ。
下り基調のスプリントは絶対に大柄でパワフルな外国人に勝てないので、逃げるしかない。
今回ほど明確にスプリントはナシで逃げしかないと作戦を決めたことは過去ない。

ライバル

この年代には過去8回世界チャンピオンになっているスロバキアのIgor Kopse氏や、昨年突如グラベル世界選手権のM45-49に姿を表した元トッププロで北京五輪ロード優勝者のSamuel Sanchezがいて、彼らには勝てるとは思えない。しかし本大会に両氏の名前はない。

ベルギーのDave Bruylandts氏が最有力と見た。というか他の選手は知らない。氏はその昔ツールドフラドルで3位になった元トッププロ。ドーピング陽性の過去もある。

レースレポート

懸案のスタート

いつもどおり最後尾からスタート。何十分も前から並びたくない。動かないと無駄に緊張だけしてトイレに行きたくなるし。
300人というのは非常に多いし街中抜けるまでコーナーも多い。
しかし水木金土と毎日往復したのでコースは概ね頭に入っている。
コーナーや障害物のたびに最適なラインで少しずつポジションを上げて、道が広いところでは出し惜しみせずに踏んでポジションを上げる。
概ね抜かすばかりで予想以上にうまく前に出られた。

集団の前に出た時にサイコンを確認したら7kmだった。10分ほどで前まで出られたわけだ。

データを詳細に見てみると、10分までに先頭に出る。心拍は148bpmまで。
先頭に出てからはポジションキープ。

0-20分までのグラフ

グラフの右側の方で若干の登りは幹線道路から農道に入ったあと。
試走ではここから緩く登るなぁと思っていたところ。レースでは集団で40km/hくらいで流れる。集団の力は偉大。この細い農道でピークを越えて下る。登りでもそんな感じなので、下りで60km/h近い速度で4列くらいいなって細い曲がりくねった農道を進むのは非常にスリリング。
誰か1人がヘマしたら大惨事になる。

コースと人数を見たらそうなることは必然だけど、レースで走ってみるとやっぱり怖い。これは前にいるしかない。いつもどおり集団の前方に位置し、たまに先頭交代するのも厭わない。

20分 意図せず抜け出す

ちょっと広い道路に出て集団は落ち着いた。
細い道で我先にと皆が先頭に出たがる動きがなくなった。
スタートから20分・13.5kmくらいでまったりした集団の先頭を牽いた時に少し後ろと離れた。
下を向いて10秒踏んで後ろを確認すると、集団はその差を埋める気配がない。そのまま踏んで1人集団から飛び出す形になった。
10秒差くらいだろうか。序盤でまだ疲労はなく誰もが追えるが逃げは単騎だし今追う必要はないだろという雰囲気で集団が止まった。
自分は極力エアロなフォームでマイペースで走る。
このコースで1人逃げとか自爆行為以外の何者でもないのは百も承知。だからこそ逃がしてもらえる。というか放置される。
ではなぜ単独で逃げるのか?
作戦とか意図とかはない。いつも通りだ。ただレースの流れでそうなっただけ。

10〜15〜20秒と(目視だけど)少しずつ差が広がる。
心拍は徐々に上がり150bpm台。
調子が良いのは間違いない。
調子が良すぎて自分のペースで走っていたら抜け出してしまった。
ニセコクラシックの時と同じだ。ニセコではその後、、、

見通しの良い農道のまっすぐなアップダウン。
ここを大集団に対して独りで先行して走るのは辛い。

いよいよ本格的に単騎で泳がされる展開になった。
ここで狙うのは後ろから2-3人の少人数が抜け出してジョインして、そのまま逃げ集団を形成すること。しかしそれは願うだけで自分では何もコントロールできない。そういう意図の選手がいなければ1人無駄足を使って終わる可能性もある。

ちらちら後ろを見るが集団が迫ってくる感じはなく、見通しの良い丘陵地帯でもそのうち見えなくなる。1分以上差がついたのは間違いない。
差がついたのは嬉しいが、追っ手がいる気配もない。この先独り旅か。
辛い。

一つの幸運と2時間近くの逃げ

一つラッキーなことがあった。
大柄なベルギー選手を捕まえた。
それまで抜かした数多の選手は序盤で前のカテゴリーの集団から落ちてくる選手なので、圧倒的な速度差で抜かすのみだった。
しかしベルギー選手はけっこう強そうだ。おそらく機材トラブルでタイムを失っただけで、脚力的には落ちてくる選手ではないだろう。
一緒に先頭交代できた。

これはグランフォンドのルールで明確に認められていることでありグランフォンドのレースフォーマットなんだが、違うカテゴリーの選手と利害一致して一緒に走るのはOKなのだ。
意図的に誰かをサポートする目的で遅れるのでなければ。
そのうちポーランド、ベルギー、自分の3人で走ることになる。ポーランドはたまに先頭交代するくらい。
ベルギーと自分は1:3くらいの比率だが、ハイペースを維持しつつ少し休める事ができるメリットは大きい。

途中まで先導バイクがいて自分がM45-49をリードしているのを実感したが、なぜか途中からモトはいなくなった。
そして、逃げている最中一度もプロトンとのタイム差を知らせてもらえなかった。後ろもおそらく同じだと思う。
どういう状況か分からないで逃げ続けるのはなんだか妙な感じだが、余計なことを考えずに逃げに集中するのに良かったのかもしれない。
先述した通り最後まで集団で行ったら勝てる可能性はゼロなので、逃げ続ける以外の選択肢は考えなかった。
捕まって徒労に終わるか(失敗)、少人数が追いついてきてそこからのレースになるか(勝負できる展開)、単独で逃げ切る(非現実的)か、、、

長距離逃げなので登りでプッシュし過ぎないように抑えて登ったが、それでも大きなベルギー・ポーランドの選手にとっては登りがキツイと訴えてくる。
自分としても登りで切り離して延々と続くアップダウンを独走するのは本望ではないので、できる限り連れと一緒に長く走るようにする。

いくつもの集団をパスする。当然落ちてくる集団とは速度差があり、逃げの道連れになるような選手はいない。それでも集団に追いついて抜かす行為だけでもスリップストリームで幾分回復できるメリットはある。

無数の登りを繰り返すうちにポーランドがいなくなり、ベルギーと2人。
長く牽いて、たまに休む、という走りができるおかげで良いペースでの逃げが続いていた。

かなり長い直線でなんとなく前に大集団が見えた。
集団との距離の縮まり方からして良いペースで走っていると思われる。見えてはいるけど少しずつしか差が詰まらない。ここで追いつけば少し休めるかもしれない。いっそうエアロフォームで少しペースを上げてみる。
ベルギーが、あれに追いつかなかったら俺はもうダメだ、というように例の手で首を切るジェスチャーをする。

少しずつだけど近付いていく。やっぱり差が大きく詰まるのは登り坂。
100km手前の緩い登り坂でついに大集団に追いついた。
この最後の追走で追いついた時に内転筋を攣りかけた。
攣るのはたいてい頑張ったあとに緩めた時だ。

13.5kmで抜け出してから約2時間。
Av 270W、NP 291W、Av 151bpm、Max 167bpm。
データは事後的に確認してるだけ。レース中はほぼ見ない。
やっぱり調子は良く、年間のベストパフォーマンスと思える数値だ。

大集団で休めるのは嬉しいけど、楽をすることよりも後ろの集団から逃げ切ることが最重要なので、集団前方でローテーションをしっかりと行う。
空気読まない上げ方をして抜け出したい人がいたら少人数で回していこうという意気込みで走る。大集団よりも小集団の方が走りやすい。

引き続き後続とのタイムギャップの情報はゼロのまま、突き進む。
それを知りたいとも思わないくらい腹をくくって逃げ続けることしか考えていなかったからあまり気にしなかった。

ラスト1時間

100km過ぎから一番長い登り、と言っても3分弱、がある。
そこも躊躇なく先頭付近で走り、2番手で通過。後ろはつながっている。
自分は集団の速度を落としたくないので、速度が落ちそうであれば先頭で抜け出す。同調する選手がいたらその人達とローテーション。
これを繰り返してなるべく平準化させてアベレージを上げる。

M40-44の千切れ集団ではあるが、自分が追いついて先頭に出てから活性化したと集団内の日本人が教えてくれた。これも2つめのラッキーだった。

なんと集団走行の楽なことか。
楽した分しっかりと先頭でハイペースを作る、を繰り返す。

トレーニングで3回通った石畳区間からはもう30kmもない。何度も練習で通った道を集団で走ればあっという間だ。

とにかく心を無にして逃げ続ける事しか考えずに走り続けた。
普通に考えて、13.5kmから抜け出して単独で優勝目指すとか、ムリだ。
だけどツールドおきなわで少なくとも3回、そんな感じの逃げをやってきた。もちろん失敗することもあるけど、大きな勝利は自分で勇気を持って動かなければ得られないということを経験している。

ラスト1時間は奇妙な感じだった。
もしかしたら奇跡的に勝てるかもしれない。
しかしそんなに甘くないという事も今まで何回あったことか。
集団に追いついて楽になったけど、楽してたら後ろから追いつかれるリスクは高まる。追いつかれたら、勝つ可能性はほぼゼロだ。
だから積極的にハイペースを作った。

最後まで絶対に緩めない。やっかいなのは、集団が巨大なので、後方にM45-49が追いついたとしても前を走っている自分は知り得ない。スプリントでなだれ込んだらいつの間にか追いついていた同カテゴリーの選手に負けてしまうという可能性も否定できない。

ちょっと余計な欲だけど、フィニッシュラインを通過する時に、自分が優勝すると認識していたい。
そのために集団から少人数で抜け出してフィニッシュしたいと思い終盤にアタックしてみるが決まらない。
最後数kmはまた街中のトリッキーな道路なので、前方キープ。

いよいよフィニッシュが近付く。
集団前方をキープして後ろから飲まれる前に安全にフィニッシュしたい。
ラスト300mくらいでスプリントが始まる。
しっかりと合わせて集団前方でもがけた。
緩くて短い坂を登って左に曲がり、すぐに右に直角に曲がって下り基調でフィニッシュ。
最後の右コーナーで1人落車しそうになったのを冷静にかわして、集団の4-5番手でフィニッシュ。
前は全員別カテゴリーだったから、ラインを越えて初めて優勝と分かった。

振り返り

あとで記録見てみたら、60km地点で4分くらい差がついていて、フィニッシュでは1.5分先行していた。

自分が後ろとのタイム差を知らなかったように、たぶん後ろの集団の大多数は自分が逃げているのを知らなかったと思う。
しかし道の狭いコースにおいては先頭付近に居ないと誰がアタックして何人逃げているとかが分からないのは誰でも知っていること。

M45-49はM50-54よりも遅いレースになっていた。(そいえば昨年もそうだった)
色々なラッキーが重なった。
老獪なライダーたちのレースは時として脚を使わずに勝負に徹するレースになることもある。
自分がそれを誘発したなんて思ってないけど、幸運を引き寄せるだけのリスクを取ったのは事実。

後続集団の頭は先述の元プロDave Bruylandtsが獲った。実力通りだろう。
自分が普通に集団で走っていればDaveには勝てなかったに違いない。

優勝したから自分が一番力があるというわけでは全然ない。
自分は世界チャンピオンを決めるゲームにたまたま勝てただけ。
けど、力でねじ伏せたのではない勝利の価値が落ちるとは思っていない。

極論すれば、この競技においてリザルト(順位)のみが大事。
さらに言うと、優勝かそれ以外。
そういう意識で走っている。

自分は逃げる機会が多い。しかしそれはそうしないと勝てないから仕方なくやっていることであって、積極的に走るのが正義と思って逃げているわけでは決してない。

今回、戦略的に動いたわけではないが、結果的にこうしないと勝てないという唯一の方法がたまたまハマったように思う。
これは2022年のツールドおきなわと全く同じだ。

調子良いと感じていた現地入り後でも40秒・1分の走りで木村君に負けていた。5分・20分・FTPで見ても、出力だけなら勝てるところはない。自分より強い選手は日本にもたくさんいる。

しかしながら重要な事はどれだけパワーを出すかではなくて、自分のできることを最大限活かして、狙ったレースでの最良のリザルトに結びつけるということ。
それがスプリントだったり下りだったり高速巡航だったり登りだったり、色々な個性・脚質によってロードレースというゲームを戦えるのがこの競技の最大の魅力。

応援してくれたすべての方々に御礼申し上げます。

今後自分は何を目指すのか。
しばらくゆっくり考えたいと思います。

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