中学生の頃、テスト勉強のお供に聞いてたスクールオブロック。藤くんが「心の鍵は無理に開けなくていい」的な事を言っている回をテープに録音し、擦り切れるくらい聞いていた。
当時の私は心に鍵を掛けたくとも扉さえなく、晩飯の前には肉まんを買い食いし晩飯の白飯は二杯食べ、太り過ぎたと自省した末ダイエットにハマりソイジョイのみを食べ続けて塾でぶっ倒れた程には若く、間抜けで、そして健康だった。

「テストで学年20位以内に入ったら、BUMPのライブに連れて行ってあげる」と母に言われた。
当時学年最下層で勉強もロクにせず、お年玉をオークションに注ぎ込み素人が書いたであろう藤くんのサインが入った雑誌の切り抜きを一万円で買うような愚行を繰り返していた。
BUMPのライブ。ライブなんてど田舎住みの私とは縁遠く、都会人の遊びだと思っていた。急にライブのステージが目の前に現れて、目が眩んだ。
それからは塾にせっせと通い、毎回学年最下位だった数学の公式を丸暗記し、必死に勉強した。学校の机には同級生に見せつける様に「20位以内！BUMPのライブ！」とマッキーで書いた。

テストの結果が配られた時、先生に「頑張ったね」と一言言われた。心拍がイカれたBPMを刻む。ヒゲダンもびっくりの変調子。結果は16位だった。クラスのど真ん中で雄叫びを上げた。帰宅して母に結果を告げた。小学生ぶりに、母と抱き合って喜んだ。

マリンメッセ、アリーナB4ブロック。生涯捨てられる事のないであろう、戦利品。緑のチケットが今でも実家の引き出しに眠っている。目の前のステージには、ギターを掲げる藤くんがいた。オンリーロンリーグローリーで指先が100本に見える程ギターを掻き鳴らすヒロがいた。うさぎみたいに飛び跳ねるチャマがいた。虚空を見つめながらドラムを叩く升秀夫(敬称略)がいた。

終わった後、まるで幻でも見たような気持ちで、博多ラーメンを啜った。喉を通らなかった。幻にしては余りにも現実的だった。鼓膜に歌声、心臓に音圧が刻まれてしまった。
大学受験をする時に、大嫌いな勉強を泣きながらした。お母さんに頑張ってると思われたくて、遅くまで勉強をしているフリをしながら風呂やトイレで寝た。「無駄に起きるくらいならベッドで寝なさい！」と何度もトイレの扉越しに怒られた。高三の冬、元旦になると同時にStage of the groundを聞いた。志望大学はD判定のままだった。

志望大学の試験は、面接があるタイプだった。面接官が私の話を聞いて皆大ウケしていたので、勝利を確信した。合格確認の日、パパのパソコンで結果のページを開いた。桜が舞っていた。合格の文字と共に。
大学の軽音サークルに入り新歓での自己紹介、「バンプオブチキンが大好きです」と皆の前で話した。超カッコいいシティボーイの先輩が、天体観測のイントロをその瞬間弾いた。スゲえ！と思ったし、好きになったけど、心のどこかでやっぱりBUMPにしか天体観測は奏でられないと思った。

社会人になり、５年目の春。小さい頃からずっと私を可愛がってくれたおじいちゃんが死んだ。涙は出なかった。実感が無かった。職場には淡々と「祖父が亡くなったので、実家へ戻らせてください」と言った。大丈夫？と聞かれた。大丈夫ですと答えた。本当に大丈夫だった。悲しくも苦しくも、痛くも辛くもなかった。ただ、「おじいちゃんが死んだ」だけ。
実家へ向かう飛行機を待つ間、話がしたいよを聴いていた。前の月にあった地元の友達の結婚式の時にたまたま帰省し、久しぶりに会った病床に臥した痩せたおじいちゃんの姿が浮かんだ。震える手で財布を開き、二万円を渡してくれたしわしわの、頭をいつもちょっと強いくらいの勢いで撫でる掌が頭の上に乗った気がした。羽田空港のロビーで泣いた。話がしたくなってしまった。めそめそ一人で泣いた。藤くんの声が耳元でずっとしていた。

あれから18年。スタンドA指定席。変わらずギターを掲げる藤くんと、うさぎのチャマと、頭の引き出しにシールが入ったヒロと、藤くん越しに虚空を見つめて正確にドラムを叩く升秀夫(敬称略)がいる。

どこがいいの？どんなところが好きなの？と聞かれたら、きっと言葉にならないと思う。「全部だよ」と、言ってしまうと思う。本当に好きな人の好きな理由なんて、言葉に出来ないと思う。
それでもこれからも「大好きです」と皆の前で言うだろうし、色んなへんてこな思い出のそばにバンプオブチキンがいるんだと思う。

たった４人に、たくさんの人生を教えてもらった。藤くんは生まれて来てくれてありがとうと言っていたけど、生まれて来て良かった。君に出会う為の曲だと言うけど、あなたたちの曲に出会う為に生きているのかも知れません。きっとこれからも。