”容疑者は不法移民” 偽情報がイギリスで暴動に 日本では…

2024-08-31 いしまる

事件後わずか2時間で…

7月29日、イギリス中部の街、サウスポートで子どものダンス教室に、近くに住む17歳の少年が押し入り、持っていたナイフで次々と人を刺す事件が起きました。

少年は駆けつけた警察官にその場で殺人などの疑いで逮捕されましたが、子ども3人が死亡したほか、大人と子ども合わせて10人が重軽傷を負いました。

イギリスの公共放送BBCによりますと、逮捕された少年は、両親がアフリカのルワンダ出身ですが、イギリス西部ウェールズのカーディフ生まれだということです。

しかし、事件発生からおよそ2時間後、容疑者が「イスラム教徒の移民とされている」などとする偽情報がXに投稿されました。

この投稿は8月29日までの1か月間に680万回以上見られ、1万4000回以上リポストされています。

BBCは容疑者について、事件直後から「イスラム教とのつながりは確認されていない」と報道しています。

フォロワー1000万のインフルエンサーも

さらに「不法移民が6人の少女を刺した」などとする偽情報の投稿も広がり、これまでに1500万回以上閲覧されています。

このアカウントのフォロワーは1000万以上。

影響力を持つインフルエンサーによって偽情報が広く拡散されました。

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コピペで広がる偽情報も

また、実際の容疑者とは異なる、偽の名前を名指しした投稿がコピーされる形で拡散されました。

Xに最初に偽の名前を投稿した1人は事件が起きたサウスポートから50キロほど離れた地域に住む55歳の女性だとみられています。

容疑者はアリ・アル・シャカティ。彼は去年、ボートでイギリスに来た亡命希望者だった」とする偽の情報の投稿は、少なくとも97万回見られていました。

この投稿自体はその後、削除されましたが、投稿からおよそ1時間後に「Channel3Now」というニュースメディアを装うウェブサイトがこの偽情報をコピーして、ニュース記事のような形で発信し、さらに拡散することになりました。

このサイトが記事を紹介したXの投稿は少なくとも150万回閲覧されていました。

BBCが分析すると、偽情報や極右思想を広めるアカウントが多く拡散したとしています。

その結果、事件の翌日から各地で政府の移民政策などへの抗議活動が行われ、一部の参加者がモスクにレンガを投げ込んだり警察官に暴力をふるったりするなどして暴動に発展しました。

暴動は26都市まで拡大し、これまでに1200人以上が逮捕される事態になっています。

偽情報で逮捕も

一方で、暴動の引き金にもなった偽情報を流した人たちが逮捕される事態にもなっています。

8月8日、55歳の女性がイギリスの地元警察に「人種的憎悪をあおる文章の公表」と「虚偽の通信」の容疑で逮捕されました。

イギリスの新聞「タイムズ」紙によりますと、偽の容疑者の名前を発信したこの女性は「投稿は間違いで、本当にばかなことをしてしまった。投稿は目にしたものをコピーアンドペーストしたものだった」と話したということです。

また、同じ内容を拡散させた「Channel3Now」というニュースメディアを装ったウェブサイトに関わっていたとみられるパキスタンに住む男性は8月21日、サイバーテロの疑いで逮捕されました。

このサイトについてBBCは話題となっているニュースに飛びつくことで、収入を得ることが目的だとしています。

偽情報は日本でも拡散

少女3人が殺害されたイギリスの事件についての偽情報は日本でも事件の直後から広がりました。

SNSの分析ツール「Brandwatch」で調べると、事件と移民を結び付ける投稿は、リポストや否定も含め、2万件を超えています。

このなかで「不法移民に少女が殺された」などといった広く拡散された4つの偽情報の投稿は合わせて230万回以上閲覧されていました。

投稿のリプライ欄などには「日本も同じことになる」などと不安感をあおるコメントが多く見られました。

憲法学が専門で「表現の自由」に詳しい、慶應義塾大学 法科大学院の横大道聡教授は、社会の中での少数派=マイノリティーの人たちに対する一定の反感がある場合には、着火剤となるような事件があると正確性の低い情報でもあっても拡散される状況があると指摘しています。

川口市に住むクルド人が

日本国内でも外国人と住民とのトラブルなどがネットで拡散し、そこに誤った情報も加わって地域に影響が出ているケースがあります。

最近、拡散しているのが埼玉県川口市に暮らす、トルコなどの少数民族クルド人に対する投稿です。

川口市などによりますと、市内に住む在留資格を持つトルコ国籍の人は1000人あまり。

一方で、在留資格がなく、一時的に収容が解除されている仮放免中の人が700人あまりこの地域で暮らしています。その多くがクルド人とみられています。

人口が60万人あまりの川口市には、外国籍の人がおよそ4万人暮らしていて、クルド人はその中のごく一部です。

埼玉 川口市がクルド人めぐり国に異例の訴え なぜ?現場で何が?

川口市のクルド人の現状について、こちらの記事でも解説しています

1年余で480万件の投稿

住民とのトラブルもあり、国会で出入国管理法の改正が議論されていた去年春ごろから「クルド」や「川口」といったことばを含む投稿がSNSで広く拡散するようになりました。

投稿の数は2013年3月から2023年3月末までの10年間でリポストを含めても4万5000件ほどだったのが、去年4月以降の1年5か月ほどで480万件を超えています。

クルド人めぐり広がる偽情報

クルド人に関する偽情報や誤情報も増えています。

たとえば8月中ごろには「クルド人が公園の使用許可が出ていないのに、勝手に祭りをしている」とする誤情報がXで広がりました。

祭りはことし3月にさいたま市内の公園で行われたもので、実際には県営公園を管理する外郭団体から利用の許可を得ていました。

このとき「主催者はトルコ政府がテロ組織を支援していると指定した団体だ」などとして、抗議する人の姿があり、警察官が警戒にあたりました。

今月広がった誤情報は、祭りを伝える民放のニュースの映像に「無許可で公園を占拠使用」とするニュースにはなかった字幕をつけていて、少なくとも29万回閲覧されました。

生成AIか フェイク画像も

また、川口市内の商店街で外国人とみられる男性たちが「日本人は川口市から出ていけ」と書かれたプラカードを掲げている、偽の画像もXやThreadsなどで拡散。

合わせて少なくとも260万回以上閲覧され、「お前らが出ていけ」「乗っ取るつもりだろう」などといったコメントが寄せられました。

実際の商店街の風景

この画像について、NHKが実際の商店街で取材したところ看板の配置が異なっていました。画像には不自然な点も多く、生成AIを使って作られたとみられています。

川口銀座商店街振興組合 白井慎一理事長
「悪意のある悪質なフェイクで地域のなかに溝ができてしまうかもしれない。海外の人と歩み寄る姿もあるなかで、あのような画像が出るのは地域の住民からしたら残念だし、やめてほしい」

組合として画像の削除を求めていくことを検討しています。

殺害予告まで

Xでは、クルド人について「即強制送還しろ」「日本から出ていけ」などとする投稿が増えていて、こうした投稿を否定するものなどを含め、この1年で40万件以上にのぼっています。

こうした中で、仮放免中の外国人への対応について法務省に要望を行った川口市の奥ノ木信夫市長には、SNSで殺害予告も出されました。

市長は、警察に被害届を提出しています。

奥ノ木市長
「偏見があったり、きちんと理解していない人がこうした書き込みをしていると認識している。川口市としては、国に対して不法行為をする外国人に対しては厳格に対処するよう求めているし、仮放免中の外国人に対しては母国に送還されるまでの間、共生社会の実現を目指している市として、人道的立場から国に支援を求めたのが現状だ」

クルド人の受け止めは

市内に暮らすクルド人たちは、どのような思いを抱えているのか聞きました。

「定住者」の在留資格を持ち、解体業を営む50代のクルド人男性は、「子ども3人が学校に通っているので、クルド人への誹謗中傷でいじめにあわないか心配だ。子どもも怖いと言っている」と話し、日本政府に対応するよう求めています。

長年、仮放免の状態だったものの、ことし1月に日本での滞在を認める「在留特別許可」を受けた男子大学生は、「川口市で起きたクルド人が関わっていない事件でも、『どうせクルド人がやったんだ』とネット上に書き込まれているのを見たことがある。どこの国にもそういう人は一定数いるので、しかたないと感じるが、何か悪いことが起きたときにクルド人がやったと言われやすくなっているし、一般の人も反応しやすくなっているので、なるべく静かに、注意深く行動している」と話しています。

専門家「生きづらい社会に」

こうした状況について、慶應義塾大学 法科大学院の横大道聡教授は、「マイノリティーの人たちが常に敵意を向けられる状況に置かれてしまうと、非常に生きづらく多様性がない社会になり、『異論は排除する』『異分子は認めない』といった息苦しい社会につながっていく」と指摘しています。

そのうえで、社会をむしばむ偽情報の拡散を防ぐために求められることとして、3つの点をあげています。

▽SNSの情報をうのみにせず、吟味してから発信する教育
▽偽情報が出回ったときにSNSの運営会社に対応を促す仕組み
▽名誉毀損や扇動などについては犯罪として厳格かつ迅速に法律を執行する姿勢を見せること

横大道教授
「インターネット空間では自分と同じような思考を持ち、興味関心が同じような人に囲まれた環境ができあがりやすく、自分と違う人がいるという実感や体験がなかなか持てない。

お互いがお互いの文化に触れ合う環境を作っていかないと先鋭化してしまう。発信する前に、自分の情報は事実に基づいているのか、あるいは発信することで傷つく人はどう思うだろうかと1歩立ち止まって考える教育やリテラシーが必要ではないか」

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