東京23区 熱中症疑いで248人死亡 エアコン未使用などが8割超
2024-09-04 いしまる
東京都監察医務院によりますと、ことし6月から8月までの3か月間で、熱中症の疑いで死亡したのは、速報値で40代から90歳以上のあわせて248人でした。
これは去年、6月から9月までの4か月間の192人を大きく上回り、公表されている2006年以降で最も多かった2022年の251人にも迫っています。
年代別では大半が高齢者で、80代が97人、70代が82人、90歳以上が32人、60代が27人でした。
場所別では屋内で亡くなった人が239人と96.3%を占め、この9割近く、死者の全体でみても8割余りにあたる213人はエアコンを使っていませんでした。
エアコンを使っていなかった人のうち、エアコンがあるのに使っていなかったのが155人で、エアコンがない部屋で亡くなっていたのが58人でした。
東京都監察医務院は「亡くなった人は高齢者や一人暮らしの人が多い傾向があり、周囲が体調の変化に気付きにくく、症状が非常に重くなる可能性があるため、注意が必要だ。熱中症による死は予防が可能なので、暑い日はエアコンを使うようにしてほしい」としています。
熱中症疑いの死者 暑さ指数や気温との関連は
死因のはっきりしない遺体を調べている東京都監察医務院は、死亡が推定される日をまとめています。
今回、一人ひとりの推定死亡日を取材し、暑さ指数や気温との関連を調べました。
熱中症疑いの死者は7月の上旬にいったん増えた後、7月下旬の25日から31日までの1週間で改めて急激に増加しています。
熱中症対策としては気温のほかに湿度や日照データも考慮した「暑さ指数」が用いられていて、25以上が「警戒」28以上が「厳重警戒」31以上が「危険」となっています。
東京の都心の暑さ指数が、熱中症警戒アラートのめやすとなる33を上回った7月3日以降、死者は増え始め、最初のピークとなっています。
また、2つめのピークは7月中旬以降にできていますが、この時も都心の暑さ指数は連日、33を上回っていました。
特に26人が亡くなったと推定されている7月29日は、関東北部で40度を超えるなど危険な暑さとなり、東京の都心の最高気温は37.3度、最低気温も29.3度となったほか、東京・練馬区では最高気温は39.3度と危険な暑さとなっていました。
8月も気温や、暑さ指数の高い日が続き、7月下旬ほどの人数ではないものの毎日のように死亡した人がいたとみられています。
認知症の高齢者など ”見守りができる環境づくりを“
認知症や一人暮らしの高齢者の熱中症対策について、認知症専門医で複十字病院認知症疾患医療センター長の飯塚友道医師は「認知症の高齢者は自律神経が正常に機能しなくなり、温度感覚が鈍っているほか、リモコン操作も難しくなることがある。そのため、きちんと水分をとっているか、室内の温度調節は適切か、本人任せにせずに周りの人が気にかけることが重要だ」と指摘しています。
その上で「家族がいないときや、別居している場合に電話だけの指示では難しいこともあり、見守ることができる環境づくりが重要だ。身近な人の協力のほか、ヘルパーや訪問看護を利用して、エアコンを付けているか、間違って暖房をつけていないか、チェックしてもらう環境を整えることも大事だ。都市部はコミュニティが機能しないこともあるので、ひとり暮らしの認知症患者はケアマネージャーと相談して暑い日中は積極的にデイサービスなどの介護サービスを利用すべきだ」としています。
さらに、飯塚医師の病院にもこの夏、多くの認知症の人が熱中症で運ばれているとして「時間や場所、人物を理解する能力が下がる“見当識障害”が進行すると、今の季節が理解できなくなり、夏に冬服を着てしまうこともあって、実際、真夏にセーターを着て病院に来られた方もいる。本人は『暑くない』と言いながら汗をかいていることもある。本人の状況にあわせて例えばタンスを整理し、手近には季節にあった服を置くことが望ましい。今後も暑さは続き、これまでの疲れもある。気を抜かずに家の中を涼しくする大切さを何度も伝えてほしい」と呼びかけています。
訪問看護の現場は
全国の熱中症の搬送者も半数以上が高齢者でこれまでもさまざまな対策が続けられています。
ただ、1人暮らしや認知症の高齢者への対策が難しいのが実情です。
大阪の訪問看護の現場の模索を取材しました。
大阪 浪速区の訪問看護ステーションは、大阪市内を中心に1人暮らしの高齢者や認知症の人の自宅に看護師などが訪問し、健康状態の確認などを行っています。
ことしは、去年より熱中症になる高齢者が多く、緊急呼び出しの回数も多いということです。
「暑さを感じにくい」繰り返し体調崩す高齢者
「暑さを感じにくい」という高齢者の特徴から繰り返し体調を崩す人もいるといいます。
1人暮らしの80代の女性は、熱中症で体調を崩し、自分で看護師や友人を呼ぶなどして、この夏、合わせて3回病院に救急搬送されたといいます。
「気付いたら倒れてしまいどうしようもできませんでした」と話す女性ですが、夏場でも足や手が冷たくなり、暑さを感じなくなる時があるといいます。
訪問看護ステーションによりますと、この女性が搬送されたときはいずれもエアコンはついておらず、現在、訪問時に電源がついているかどうか確認を徹底することにしています。
高齢者の熱中症対策 訪問看護の取り組み
訪問看護ステーションは、高齢者が熱中症にならないよう、1日に摂取してほしい量の飲料水のペットボトルにペンで日付を書くなどさまざまな取り組みをしています。
認知症の高齢者には特に意識して対策をとるようにしているといいます。
認知症で1人暮らしの80代の高齢男性の場合、エアコンのリモコンに「冷房つけたまま」と大きく書いたシールを貼っていますが訪れたとき、エアコンは消えていました。
室温は30度前後、湿度も60%以上と高くなっていましたが「あまり気にしていません。寒いと思うと消します」と話していました。
看護師によりますと、認知症の高齢者の中にはエアコンを消してしまったり、消したあとにスイッチを入れるのを忘れてしまったりする人も少なくないということで、地域の福祉事業者と連携してなるべく毎日誰かが見守る態勢づくりに取り組んでいるということです。
男性は「31度でも暑く感じず、ちょっと寒く感じます。もし1人で倒れても誰にも連絡できないので、見守りに来てくれるのは助かります」と話していました。
地域で見回り続けても死亡 厳しい現実も
地域での見回りを進めているこの訪問看護ステーションでは利用者の男性が亡くなるという出来事がありました。
大阪市内の集合住宅に1人で暮らしていた80代の男性は認知症で熱中症のリスクも高いと考え、看護師は部屋の温度の調整や水分の摂取を積極的に促していました。
週1回の定期的な見回りに加え、集合住宅の管理人にも声かけを依頼していたということですが、7月29日、応答がなかったことから管理人が部屋の中を確認すると、部屋の中で倒れていた状態で見つかり救急搬送されましたが、数日後に亡くなりました。
当時、エアコンは付いておらず窓が開いていたということです。
看護師「非常に危機感 他職種との連携心がけている」
「ビジナなんば訪問看護ステーション」の看護師の男性は「去年よりも緊急の呼び出しも増え、非常に危機感を感じています。認知症の方であれば、暑さや具合の悪さを感じない方も多いです。実際行ってみると熱中症寸前だったという方はたくさんいます。今後も暑さが続くようであれば、かなり危機的です。僕たちだけで支えきる事は限界があるので、他職種や地域との連携をスムーズにすることを心がけています」と話していました。